【カクヨム限定話】鑑定士リアの昇級試験(1)
ソルトさんがリュウカに遠征に行った。
私はソルトさんのお父様……鑑定士部長に昇進試験を受けるように言われていた。といっても、私はまだS級になるほどの実力派ないし……。
「大丈夫、大丈夫」
といっているが。S級になるのはとても大変だ。
「私、専門分野がないんですよ」
そう。自分で言うのも恥ずかしい。
S級になる人は鑑定士として優秀と言うだけではダメなのだ。例えば、ソルトさんならB級戦士以上の武力やB級魔術師程度の魔術が使える。サブリナさんは薬学の知識に長けているし……。
「あるじゃないか!」
ガリオンさんは私なんかよりも自信満々で言った。
「リアは料理が上手だ」
「え〜〜! なんですかぁ〜」
怒る私にガリオンさんはガハハと笑った。バカにされてる……?
でもガリオンさんはさっきとは一変、真剣な顔になる。
「鑑定士ってのはそのパーティーの要だ。戦士たちの疲れを癒し、パーティーの士気を高める。冒険の途中で食べる飯によってはその後の攻略を大きく左右するだろう」
私はバカにされたのか励まされたのかわからないまま昇級試験の説明書を手に持って鑑定士部の執務室へ戻った。
元々は鑑定所だったこの建物のいいところは広いところだ。私は一応、ひとりで使える執務室を持っている。
「料理かぁ」
私は料理は好きだけれど、正直ソルトさんみたいにダンジョンの中でカジガジ採集をしたり、事件を鑑定士の力で解決するかっこいい人になりたい。
「毒抜き試験と……それからダンジョン攻略試験、自己アピールかぁ」
こんな時にそばにいてほしい師匠のソルトさんはいないし。心細いなぁ。
「よし……予習するかっ」
***
「えっと、そうですねぇ。でもそれってずるじゃありません?」
シャーリャは眉間にしわを寄せるが、なんだか頰が赤くなっている。
可愛い。私は彼女が大好きだ。
「くろねこ亭試作のふわふわパンケーキと交換でどう?」
「う……ううー」
シャーリャは悔しそうな顔で私を見つめる。私はシャーリャの心を揺さぶりにかかる。
「ふわふわの生地に甘ーいはちみつとセブンベリーの木から取れた七種類のベリーで作ったソースをかけて……とろける食感のミルククリームを……」
「わっ……わかりましたっ。絶対! 絶対ですよっ!」
「鑑定士部で待ってるわ」
「む、むぅ」
次は、流通部ね。
私は流通部のミーナさんの執務室に向かう。いつもであればソルトさんもいるんだけど……。今日はリュウカに旅立ったのでいない。早く帰ってこないかなぁ。
「ミーナさん」
「あら、リア。どうかした? ソルトさんなら……」
「今日はミーナさんに用があって」
「あら、何かしら?」
「明日の昇級試験の件で……何か教えてもらえないかなぁって」
ミーナは少しだけ頰を膨らませてしかめっ面をする。こんなお姉さんがいたら毎日楽しいだろうな。なんて思った。
「だめよ、ずるしちゃあ」
「ずるじゃないですよ。情報収集です。非力な鑑定士にとって情報は全てなんですよっ」
「私は一応幹部なのよ? 教えられないわ」
こういう返事が来ることはわかっていた。だから、私はこれを持ってきたのだ。
「ふわふわのパンケーキはいかが?」
シャーリャとミーナさん。ふたりはパンケーキに夢中だ。エリーさんもお茶を淹れたら一緒に食べてくれるらしい。
甘いものを食べたら……
「しょっぱいのもありますからね」
私はすかさずバスケットの中から極東風あられを出してテーブルに並べた。しょっぱいものと甘いものを交互に食べるのは悪魔的。
「まず、そうですねぇ。これが鑑定士部が予約したダンジョンです」
おぉ……。シャーリャありがとう。
上級ダンジョン、一度ソルトさんと行ったことがあるダンジョンだ。確か、山岳系のダンジョンで高いところにボスが住んでいる風変わりな形だった。
「そうねぇ、新しい戦士部長のララ・デュボワ、それからネルが審査員を務めるらしいわ。そうね、自己アピールの時間じゃないかしら」
「ありがとうございますっ!」
私はふたりに挨拶をすると研究部へと走り出した。
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