第216話 新女帝の誕生(1)

 圧巻の一言だった。

 渦巻く黒雲を切り裂くように光が照らした。真っ白な光に切り裂かれた黒雲は次第に薄くなっていく。

 そして、みるみるうちに青空が顔をのぞかせたのだ。


「おぉ……見ろ」


 村長が指差した先には龍鈴リュウリンが飛んでいた。その背中には笑顔を浮かべるアマテラスと陽女帝が乗っている。

 彼女たちはゆっくり、ゆっくりと地上へ降りてきた。


「っ……」


 龍鈴リュウリンから降りようとしてよろけた陽女帝を純純チュンチュンが支える。


「龍神たちの怨霊は、うら若き女帝のすべての魔力と引き換えに天に召されました」


 アマテラスは太陽光に照らされて神々しい。


「良いのです。全てを跳ね返す水鏡の力など……この国の民に比べれば惜しくはありません。ありがとう、極東の姫よ」


 アマテラスよりもヒメの方が誇らしげに胸を張った。

 今回に関してはヒメの機転がなければ悲しい結末になっていたかもしれない。


「ソルト……お腹へったアル」


 ぐったりする龍鈴リュウリンに俺は「さっき妲己食べたろ」と言いたいのを抑えて「後で作ってやる」と優しく答えた。


「ソルトさん、そして極東の皆様。本当にありがとう」


 陽女帝の涙がポタリと落ちる。


「俺の仲間が竜宮城で救護活動を行なっています。陽陛下はお戻りになられた方がよいかと。えっと……」


「私たちも手伝います!」


 純純チュンチュンが元気よく手をあげた。村のみんなも久しぶりの太陽の光に喜び、泣き、そして元気付けられているのだ。


***


 竜宮城での生存者を含め、エンドランドや極東からたくさんの助っ人が復興の手助けをした。

 俺は新しい作物が育つまでの食糧の配給をするために農場の作物を優先的にリュウカに出荷してついでに生薬のタネを集めたりもした。


「すごい、これ……」


 万能薬の材料になる薬草のタネをもらった俺とミーナは感激している。夢にまで見た万能薬……。


「いいアルよ。女帝様を助けた救世主の人たちアル」


 救ったのはアマテラスなんですけどね……。

 と思いながらも、妲己を見つけ出したのは俺だし。もらっとくか!


「じじ様の花畑もすぐに復活するアル。そしたらまた来るアル」


 見渡す限りの畑には双葉の芽が顔を出している。数週間もすれば美しいリュウカの景色が戻ってくるだろう。

 復興したら休みでもとってもう一回くるかな。


「シュー、いくぞ」


「またくるアルよ!」


 俺は翡翠に掴まって竜宮城へと戻る。続いてミーナも戻ってくる。

 影のヒーローはこの翡翠だな。ほんと。


「いやだったら、いやアル! 意地悪しないヨ!」


 騒がしい声とともに俺に激突したのは龍鈴リュウリン。やけに豪華なドレスを着させられた龍鈴リュウリンは泣きっ面で俺にしがみついてきた。


「ソルトも陽を説得するアル! 龍鈴リュウリンは谷底でのんびり暮らすアル!」


「ソルトさんも説得してください」


 陽女帝と純純チュンチュン龍鈴リュウリンを俺から引き剥がした。


「えっと、何を??」


龍鈴リュウリンがこのリュウカ帝国の女帝に即位するんです!」


 純純チュンチュンが嬉しそうに飛び跳ねた。


「私は国を守る力はありません。国を守る資格もないでしょう。しばらくは龍鈴リュウリンの補佐をしながら、最終的には彼女に任せて退くつもりです」


 その計画のためにあの龍を守る村のやつらが新しく竜宮城に住むことになったらしい。

 つまりは、龍神が国を治める元の姿に戻ったってことだな。


龍鈴リュウリン、頑張れよ」


「いやアル! ソルト! 龍鈴リュウリンを助けてくれヨ〜」


「いいか、ここで女帝様をやってれば毎日純純チュンチュンとうまいもんが食えるぞ」


 龍鈴リュウリンは俺の言葉に目を輝かせる。なんて単純なんだ……。


「ミーナさん、しばらくは私がいますので最初の約束についてご安心ください。エンドランドのギルドとの取引の件、復興次第ですが……」


 ミーナも龍鈴リュウリンと同じくらい目を輝かせる。


「俺も、復興したら様々な作物を育てたいです。料理も是非学びたい」


 もちろん。と陽女帝は微笑んだ。

 全部丸く収まった。

 と思ったその時だった。


「陛下! 大変です!」


 慌てた兵士が俺たちの前に現れると早口で語り出した。


「宝物庫の……神刀がありません!」


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