第212話 少女の願い(1)
「もしかして、この近くにダンジョンってありますか?」
俺たちがたどり着いた集落はここ数年、人間も動物もメスしか生まれないらしい。俺には心当たりがあるんだがなぁ。
「ダンジョンって……なにアル?」
「洞窟ですね」
「あぁ! 迷宮洞窟のことアルね。知ってるヨ」
「この村は……もう終わりだ」
これ以上、人間の子供を養う力もない。
「龍神様を殺しちまった……あの女帝のせいだ」
「お父さんっ」
「俺たちは……遠い異国からこの黒雲を晴らすためにやって来ました。陽女帝の手先でも、あなたたちの敵でもない」
俺の説明を聞いた長老は
「ここは……龍神様をお守りする使命をもった村だったヨ。龍神様と共に暮らし、人間の侵略を防ぐ。でも……数年前から女しか生まれなくなって家畜は減り、兵も減った。そして、黒雲が国を覆って……龍神様があの女帝に殺された。女ばかりのこの村で逆らえるものはいなかったヨ」
「つまり、この村は龍を守っていた……と?」
「そうだヨ。この山のてっぺんに住まう龍神様……たちの村がある。そこに誰も近寄らせないようにするのが我々の使命だったヨ」
村長は「この国はおしまいダヨ」と言って俯いた。
「
「抱っこして連れてくる?」
「え?」
「一人づつなら抱っこして連れてこれるよ!」
「頼む、これを渡せばわかってくれるはずだ」
俺は紙切れに伝言を書いて翡翠に渡す。
「えっと……ソルトさんといったアルね。どういうことカ?」
村長は目を丸くしている。
「体が痒くありませんか?」
村長がポカンとする。
***
ユキとシューはダンジョンの入り口に大きな魔法陣を描いた。特定の魔物が通ると発動する。虫型の魔物が大嫌いな氷型設置魔法陣。
「ユキはウツタより上手にゃ」
「そう?」
「そうにゃ、純粋な魔法にゃ」
「これが何かしてくれるアルか?』
俺は足元でシュウシュウと音を立てて凍った虫を拾い上げて
リアやゾーイなら悲鳴をあげそうなもんだが。
「
「ソルトさーん!」
フィオーネたちがダンジョンの奥から戻って来た。そして、
「ダンジョンボスはゴブリンクイーン、エンドランドで言えば中級以下のダンジョンだな」
エスターの意見にソラとヒメが同意した。
——やはり
「
「多分……八年くらい前アル」
「ヒメ、あの女帝が即位したのは」
「八年前じゃな」
シューが
「村長たちと一緒に話そう。そろそろミーナたちもついている頃だろう」
山岳地帯。
俺たちは吊り橋を渡って、
強い風が吹いた。
ぐらり、吊り橋が揺れる。まるで風のように何者かがユキを吊り橋のした、大渓谷へと連れ去ろうとした。
「ユキ!」
俺はユキの手を取るも風に押し負け、俺の体は吊り橋の外へ踊り出た。時間が止まったかのように鮮明に吊り橋の上が見える。
飛び込もうとするヒメを止めるソラ、フィオーネはこれ以上吊り橋が揺れないように抑えている。
シューは迷わず俺の方へ飛び、エスターも無表情のまま俺たちの方へと降下してくる。
俺は風を見た。
幼い少女が俺を見ていた。黄金の目に褐色の肌。美しい肌の上には所々緑色の鱗が生えている。
俺は思わず叫んだ。
「エスター! 斬るな」
間一髪。エスターが剣を抑え俺たちは谷底を流れる川の中へと落下したのだった。
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