第211話 リュウカの宮廷(2)


「えっと、皆様のお世話を担当します美美メイメイと申します」


 美美メイメイと名乗った女性は地味で首の詰まった服を着ている。学者らしく、片眼鏡をつけており、髪の毛は頭の左右でシニヨンにし、それを布で覆っている。可愛いが不思議な髪型だ。


「やはり、龍か」


 エスターは大きな絵巻物を広げる。そこには大きな黒雲の中から顔を出す大きな……蛇のようなドラゴンのような……生物。


「ドラゴンの頭を持つ蛇型の飛龍……でしょうか。でも翼はありませんね」


 ソラがキラキラしら瞳で言った。


「極東にもこの龍が住まうと言われている大岩があったのですが、確認はされていません」


「ダンジョンの中ではなくダンジョンの外に住まう魔物っていうことか?」


 俺の質問にヒメが「チッチッ」と指を降った。なんかムカつく。


「極東では龍と呼ばれている。神様じゃよ。我々を守る守り神。じゃから、姿を見ることはできぬが……」


「黒雲よりたつの神が現れるのは大きな災いの前触れ……と言われいます。極東では……ですが」


 美美メイメイ


りゅうですか……。すでに調査をしましたが龍の巣に姿は見えず、我々は龍が黒雲を出したとは考えておりません」


 極東では神様でもリュウカでは環境生物……か。ところ変わればとはよく言ったもんだ。


「なぜ、そうだとわかる?」


「それは……黒雲を龍の出したものだと考えた陛下は龍を討伐したからです」


 ヒメとソラが「なんと」と驚嘆する。

 なーんか、嫌な感じだな。


「よし、それじゃあ後はこっちでこれを読み込んで置くよ。一旦出ていてくれないか、美美メイメイ


 美美メイメイは「はい」と返事をすると離宮を出た。


「ソルトさん。これは厄介なことになったかもしれません」


 ソラが身を震わせた。そして、ヒメが口を開く。


たつ殺しはご法度。数々の災いが降りかかる」


——ザッパーンッ


「ただいまっ!」


 いい雰囲気が翡翠のせいで台無しになる。


「じゃあ、これは……」


「呪いじゃ……」


***


「怖かったよぉ」


 翡翠が涙を流している。きらきらひかる涙は綺麗な宝石となって砕ける。それを繰り返していた。

 もしもここにヴァネッサがいたら泣いて喜びそうだ。


「じゃろう? ヒミコ様は怖いのじゃ」


 翡翠は濡れないようにして持って来た包みを俺たちに投げてよこすと水の中に潜ってしまった。


——元凶は小さな災いに


「なんだこれ」


「どこかに災いの元凶があるってことじゃないのかな?」


 美美メイメイに俺たちは「各地に起きている困りごとを調査してほしい

」と頼んだ。飢饉以外の困りごと……極東風に言えば災い。


「私は必要なさそうだな」


 エスターが少しだけ残念そうに言った。彼女は龍を退治することを夢見てここに来たのだ。すでに退治されていたとなれば彼女の出る幕はない。

 正直、フィオーネで十分だ。


「まぁでも、いいだろう。万が一のことも考えて帯同をしてくれ」


 エスターはため息をつき、ユキは目を輝かせた。


「飢饉以外の困りごとがあった村は……いくつかありました。こちらがまとめた資料です」


 美美メイメイが広げた巻物には様々な困り事が書かれている。


「しらみつぶしに見ていく……か」


 美美メイメイにお礼を言って、資料に目を通すとほとんどが「太陽が出ないこと」に紐づいた困りごとだ。


「オナゴしか生まれぬ村……か」


 ヒメが指差した資料を見て美美メイメイが説明をする。


「人だけではなく家畜も生まれるのはメスばかり。ただ、これは黒雲が広がる前から……ですから関係ないかと」


——元凶は小さな災いに


 ヒミコの予言が正しければ……?


「行ってみるか」


 この現象にはちょっと心当たりがあるし。

 

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