第210話 リュウカの宮廷(1)
「ようこそ、おいでくださいました」
俺たちは
「
本来はもっと美しいのですヨ。と少しなまった様子で
豪華絢爛。といってもエンドランドの城の豪華さとはまた違う。
「
ホンタオという女性は真っ赤なリュウカ風ドレスを着ていてとてもスレンダーな女性だった。賢そうな顔つきは俺たちを見て少しだけ柔らかくなる。
「えっと、ソルト様。彼女は
「ソルト・アネットです。えっとこちらが……」
俺は引き連れて来た奴らを
「名前が覚えにくいでしょう?」
「少し……」
「そうよね、私もエンドランドの人と会うのは初めてなのだけれど……お互い苦労するわね」
「ヒメはよく覚えておるぞ」
極東とリュウカは交流が古くからあるらしい。そういえば、そんなことをソラが言っていたような。
「極東とは古くからの付き合いですからね」
「極東にあるものの多くは古くにリュウカから伝わったものなのです」
まぁ、それはそれとして。
大きな両開きの扉の先、おそらくここが謁見の間……だろう。花びらをかたどった飾りがたくさん煌めいている。
眩しいくらいに金色の装飾が輝き、その真ん中に座っている陽女帝は薄い羽衣も重ね着したような不可思議な格好をしている。
「まるで天女じゃ」
てんにょ? まぁよくわからんけどヒメが喜んでいる。
「天女とは……」
ソラが俺の耳元で天女について教えてくれる。天から降りてくる神に近い存在か。ソラ曰く、おとぎ話に出てくる天女の格好にそっくりらしい。確かに、透けて見えるような桃色の帯が浮いているような?
「よくぞ、おいでくださいました」
「陛下、ソルト様たちが食糧を」
「本当にありがとう。兵たちは疲弊し……民は飢えています」
「陛下、まずはこちらの普及をお願いできますか」
俺はいくつかの植物の苗を床に置く。
「それは……?」
「光がなくとも成長する作物です。エンドランドのダンジョンの中から採集してまいりました。こちらに栽培方法と採集方法を記してありますので……」
「
陽女帝の一言で
成長水があればもっと良いのだが……ここにはあるのだろうか。
「ただ、水の質が悪いと育成は難しいです」
「そうですか……」
「多くの動物が死に……死体で国中の水が汚染されています」
かなり深刻な状態みたいだ。
「でも……宮廷と後宮の分の食料は確保できるでしょう。ありがとう。それでは、
***
俺たちが連れてこられたのは、離宮と呼ばれる独立した建物だった。ふかふかのベッドは人数分、木で作られたつい立てで仕切られている。
俺は女として数えられてるのね……。
「おぉ! いいお風呂ですよ!」
旅行気分のフィオーネ、なぜか達観した様子でドヤってるヒメ。エスターはユキと何やら戦闘について話し込んでいたし、ソラは
「じゃあ、俺は翡翠を連れて見て回ってくるよ」
「にゃにゃっ」
俺は翡翠を抱き上げるとまずは離宮の外に出て宮廷内の池に翡翠を放り込む。翡翠はしばらく泳ぐと
「うーん、なんか変な感じ」
と言った。
「お魚がいない。虫さんもいない」
翡翠は首をひねったまま俺に飛びついて、俺の服はビシャビシャになる。
腐臭。
「翡翠、お前水綺麗にする魔法とか使えないの?」
「使えるよ」
翡翠は「えーい!」と言って水の中に潜って行く。みるみるうちに水は透明になるが……。
「でもね、すぐにまた汚くなっちゃうよ」
「そうだよなぁ……」
「ソルト」
エスターがいつの間にか俺の後ろに立っていた。
「資料が集まったらしい。それから、私たちを担当してくれる子が挨拶に来ていた。顔合わせを」
「ありがとうエスター」
俺は空を見上げる。厚い黒雲が覆っている。太陽が出なければこの国はやがて死んでしまうだろう。
問題は、なぜ……こうなってしまっているか。だな。
「ねぇ、戻ってもいい?」
「いいけど、夜までには離宮の風呂に戻ってこいよ」
翡翠はにっこり微笑むと水の中に消えて行った。俺も、あんな風に自由に移動ができたらなぁ。
「ユキ、この池が腐らないように冷たくできるか」
エスターは翡翠が綺麗にしたばかりの池を見て言った。ユキは魔法で池の中に大きな氷を作り出した。
「エンドランド、私の母方は地方の出身でな……冷たい水の中に魚は少なかったが腐ることはなかった。こんな知識が生きるとは」
エスターは「資料が山積みだ」と言い放つと離宮へと戻って行く。
「ソルト、やっかいなことになりそうにゃ」
「だな……」
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