第209話 遠征メンバー(2)

 流通部の執務室で俺は朝早くから仕事をしていた。今日の昼ごろに俺たちはリュウカ帝国へと出発する。

 まぁ、最初は宮廷と呼ばれる城で事情を聞く。

 俺たちはそこを拠点としてリュウカ帝国内のポートを通じて様々な場所を訪れて原因を探る。とのことだ。


「ソルトさん。これ、例の資料です」


「ありがとう、シャーリャ」


「お安い御用です。この前はありがとうございました」


 俺はシャーリャが用意してくれた資料に目を通す。これは……。


「ソルトさんはすごいんですよ! いろんなことを解決してて、今回のこともきっと解決します!」


 フィオーネが誰かと話しながら歩いてくる。相手は……男?!


「はいりますー!」


 そこは失礼しますだろうが。全く。

 フィオーネと共に入って来たのはシルバーヘアの老紳士だった。


「えっと……はじめまして」


「君が、ソルトくんだね」


「はい」


「私はロバート・デュボワだ」


 まずい。ララの件か。デュボワ家を敵に回してしまってミーナが困っていた……とか言ってたよな。ってことはこの人はララの父親で現在デュボワ家の当主。


「君に頼みがあるんだ」


 俺は先ほどの資料を置いて、彼の話を聞くことにした。


***


「頑張るのよ。信じているけど」


 ミーナは俺たちを送るためにギルド、ポートまで来てくれていた。忙しくて風呂に入っていないみたいでちょっと臭う。


「エスターさん!」


 ユキがうるうるの瞳で飛び出すと


「お母さんじゃなくてユキを連れていってください! ユキはエスターさんの契約魔物になりたい。そのために一緒に行きたいんです」


「ユキ……お前はまだ」


 俺を遮ったのはエスターだった。


「もしも、小さな子供を殺さなくてはならなくなったらお前は殺せるか。お前の同族が私の前に立った時、お前は同族を殺せるか」


 ユキは俯いた。


「甘い」


 エスターはユキを突き放すように言うと「行こう」と俺に合図をする。


「ユキは……エスターさんと一緒にいたいです! エスターさんを守りたいです」


「ソルト、残酷なことになるかもしれないがこいつを連れて行っていいか?」


「ヒメは……修行として連れて行くのも良いと思うのじゃ。ユキが育てはそれなりの戦力になるじゃろうて」


 ヒメがあんなに嫌っていた雪魔女の肩を持つとは。


「ウツタ、お前はどう思う」


 最終判断は母親であるウツタに。


「ユキ、これはオヤバナレよ。それでもいいの」


「うん。もう子供じゃないよ。立派な雪魔女だよ」


 ソラが俺の耳元で囁く。


「雪魔女は精神的な成長を遂げると体が変化します。連れて行くのも……吉かと」


 ソラはまるで極東の巻物に出てくる悪代官だな。

 

「わかった。仕方ない。行くぞ」


 ユキがにっこりと微笑む。そして、ウツタから荷物を受け取ると指をパチンと鳴らす。すると、荷物がユキの周りをふわふわと浮遊する。

 よく見ると小さな雪の精が荷物を持ち上げている。ユキも精霊を呼び出せるのか……俺は魔物を侮っていたのかもしれない。


「ユキ、気をつけるのよ」


「大丈夫だよ」


「さて、まずはリュウカの美味しい食べ物を食べるのじゃ」


「ヒメ様……もうっ」


「さっ、楽しみですねぇ。えへへ〜」


 ユキ・ヒメ・ソラ・フィオーネ、そしてエスター。いつも通り賑やかなメンツで俺たちはリュウカへと向かった。


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