第208話 遠征メンバー(1)
「もう! 新しい戦士部長に逆らったんですって!」
ミーナはカンカンに怒っていた。なんでもあのララ・デュボワと言う女は王族に仕える騎士の中でも家柄が抜群によく、相当な資産家としても有名らしい。エスターとは実力の差で劣るものの、タケルを抜いた戦士の中では彼女がエスターの次に優秀。
実力順に昇進する戦士部らしい抜擢だ。
「ララとエスターは昔からライバルでね。戦士部では陽のララに陰のエスターとよく言われていたわ」
なんでもララはエスターとは違って華やか世界に生きて来た。だが、ララの父親がエスターの父親に勝てなかったことでデュボワ家はウリツキー家に劣等感を感じていた。
それがエスターの失脚によってトップの座を取ったのだ。浮かれてしまう気持ちもわからなくもない。
「まぁ、あんな様子じゃ俺の親父と喧嘩するわな」
「で、早速流通部にも圧力をかけて来たわよ。あのお嬢さん」
「すみません、でも……」
「いいの、フーリンから聞いてる」
ミーナは大きくため息をついて「なんとかする」と言った。それでも俺から話を聞いたミーナは少しだけ悲しそうに
「エスターとララ、二人が手を取り合うことは難しいのかしらね」
と言った。
俺にはなんのことだかさっぱりわからない。多分、無理だ。ゾーイならララとうまくできそうな感じだけどな……。エスターは冗談通じないタイプだし。
「間にタケルでも挟みますか。あいつ、バカだし強いし」
「タケルくんは……そうねぇ。ちょっと頭が弱すぎるわね」
なんか、ミーナの含みのある言い方に俺は違和感を覚えた。エスターとララは幼馴染でライバルという関係以上に何かあるのだろうか。
***
「ヒメ、ソラは確定として他に誰を連れて行くかだ」
俺は暖炉の前、大きなテーブルのある部屋に今いる全員をかき集めた。
「私は、エスターさんがいるなら必要ありませんね」
フィオーネが言う。俺としては、正直フィオーネには来て欲しいと思っていたんだが……。
「できれば来て欲しいけど」
「えっ!? いいんですか」
「どうせ、新しい戦士部長とソリが合わないんだろ」
「いいえ」
だよなぁ……。フィオーネはエスターの肝いりだったし。
って……いいえ??
「ララさんはすごく良くしてくれるんですよ〜。えへへ〜、戦士は皆兄弟!」
わけのわからん号令を言いながらフィオーネは拳を突き上げた。戦士至上主義のララとフィオーネ。多分恐ろしくソリが合わなくなる時が来るはずだ。
「じゃあ、フィオーネは決定で。次にウツタ、行けるか?」
「えっと……はい」
ウツタを遮るように声をあげたのはユキだった。
「私がいく!」
「ダメだ、ユキはまだ子供だろう」
「だって、エスターさんが行くんでしょう? 私がお母さんの代わりにがんばるもんっ!」
なんか、面倒なことになって来たなぁ。
正直、何があるかわからない未踏の地にガキんちょを連れて行くのは得策じゃない。
「ユキ、子供はお留守番しててくれるとありがたい」
ユキは頰を膨らませて俺を睨む。睨んでいたが、次第に涙目になって泣き出してしまった。途端にテーブルを囲む女たちは「また泣かせた」と俺を攻め立てる。
「うーん、ダメだ」
「私からもお願いできませんか?」
ウツタがひゅうひゅうと冷たい気配を漂わせながら言った。泣いてしゃくりあげているユキが少しだけ静かになる。
「人が死ぬかもしれない。怖いことが起こるかもしれない。そんなところに子供を連れて行くわけにはいかないよ」
俺が反論したところでユキは諦めたのか俯いてしまった。
「あとは、シューと翡翠。翡翠はいくつかの水の中に入ったらこっちに戻っていいぞ」
「ほーい」
翡翠はゾーイに買ってもらった可愛らしいビキニと耳かざりをしていていつにも増して可愛い。
このくらいでいいか。大人数になるとあれだし……。
「じゃあ、おやすみ」
俺は自室へと戻った。
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