第207話 孤独と死(2)
流通部に戻る途中、非常に豪華絢爛な鎧を身につけた女が歩いているのが見えた。金ピカの鎧は光を反射してかなり眩しい。
そして、バカっぽい。
「シャーリャ、あの人は?」
シャーリャは眉を潜めて小さな声で言った。
「あの人、新しい戦士部の幹部ララ・デュボワさんです」
シャーリャの話じゃ、王族に使える騎士の家系の娘でいわゆるエスターのライバル的な関係らしい。
「女の子ですけど……期待しない方がいいです。鑑定士や薬師……医師すらも帯同しないことで有名です。関わらないのが吉ですね」
シャーリャは俺の耳元でこっそりと話した。
ララ・デュボワは顎を上げとっても偉そうにギルドの中を行進している。彼女を取り巻く戦士たちは周りの冒険者を威圧し、退けさせる。
本当に嫌な感じだ。
——彼女も私を恐れている
先ほどのエスターの言葉が頭をよぎった。エスターに殺されることが怖くて、エスターを危険な任務に派遣している。
幹部にふさわしくない女だと俺は思った。権力とちょっとの腕力があるだけの哀れな女だ。
「なぜ、まだ手続きが進んでないのかしら」
「す、すみませんっ」
受付嬢が泣きそうな顔で頭を下げた。
「戦士部長の私が直々にダンジョンへ行くのに……すぐに用意もできないの? 人も少ないし……やる気あるの?」
フーリンは昼に出ていていない。シャーリャが「行って来ます」と言ったが俺は彼女を止める。
ぽかんとするシャーリャ。俺は気がつけばララの隣に立って
「俺たち流通部の手伝いをしてもらっているんです。それに……幹部がダンジョンへ入るときは事前に連絡をするはずですが、しました?」
と口走っていた。
ララはみるみるうちに真っ赤になった。そういう事務的なところは鑑定士がやることが多いがこいつは鑑定士や薬師をやめさせたから抜けていたんだろう。
「貴様……私にものを申す立場なのか? ん? 見るに魔術師風情が」
「俺は流通部の顧問。しかもあなたの嫌いな鑑定士ですよ。あなたがギルドでの事務手続きもわからないようだったので教えて差し上げただけです」
「どうかしたのですか? あら、ソルトさん」
フーリンが戻ってくるとさっきまでララに絡まれていた受付嬢はフーリンに泣きついた。シャーリャも怒った様子でララを睨んでいる。
「あぁ、戦士部長ララ様。幹部がダンジョンへ行くときは必ず申請が必要です。それに、受付嬢を威圧するのはおやめなさい」
「うっ……受付嬢ごときが!」
「ごとき……?」
まずい。
これは、まずいぞ。
俺はシャーリャに目配せしてずらかろうとする。しかし、
「ソルトさん。まだ帰らないでくださいね」
フーリンに釘を刺されてしまう。
「私の言っていることは間違ってないはずよ。戦士が動きやすいように受付嬢は戦士を優先すべき。戦士専用の窓口でも作ったら?」
「そう、それが戦士部長の答えですか」
「当たり前でしょう。鑑定士用の採集専用窓口なんて潰せばいいのよ。もしくは、そんなできない受付嬢は鑑定士と薬師専用にさせたら?」
ララは高笑いすると「天職に恵まれなかった顔だけの受付嬢なんだから」と泣いている受付嬢に唾を吐いた。
俺は哀れだと思った。ララ・デュボワという女が。
「そうですか」
「たかが、受付の長が何を言っても無駄よ。ギルド長アロイは私に目をかけてるから。私が強くて美しいから」
フーリンの表情がシャーリャに何かを伝える。すると、シャーリャが走り出した。そして、すぐシャーリャは戻って来たのだ。
「問題のある幹部様がいらっしゃるのよ。あなた」
フーリンのドスが効いた声に震え上がったアロイはスキンヘッドにこれでもかという冷や汗をかいている。
「ギルド長?!」
ナナはひっくり返りそうなくらい驚いている。
そう……案内部受付課のフーリンは現ギルド長アロイ・マウナの妻である。
「この子を可愛がっているんですって? え?」
「ち、違うんだフーリン」
「この子、うちの可愛い受付嬢に唾を吐いたのだけど。それでも、可愛がるつもりかしらん?」
「フーリン、落ち着いて」
アロイが助けてくれと俺の方を見る。と同時にフーリンの突き刺すような視線が俺を貫く。
アロイさん……すんません。
「流通部顧問としても新戦士部長ララ様の態度は許しがたいものでしたね。戦士、いえ騎士としてあるまじき行動でございました。えっと、はい。フーリンさんの言う通りです、ハイ」
怖すぎる。
フーリンが怖すぎる。
——受付のフーリンには逆らうな
これはこのギルドで働く者誰でもが知っていることだが、それを知らされていなかったララの人望の薄さといったら哀れになるくらいだ。
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