第192話 予想外の事態(1)


「負けたりしませんわ」


 ポートに入った俺たちはすぐに戦闘態勢に入った。というのも相手のパーティーが攻撃を仕掛けてきたからだ。

 タケルは問答無用で相手チームの戦士アーノン・リッカーと剣を交え、シューはクララと睨み合い、フィオーネが相手の回復術師と鑑定士に襲いかかる。

 俺とサブリナはエスメラルダに護衛をしてもらいながら採集を進める。


「おい! 虫が寄り付かないぞ!」


 相手の鑑定士・リクが悲鳴をあげる。クララは柄にもなく舌打ちをするとふわりと浮かび上がり万年氷を埋め込んだ杖を天に掲げた。


「まずいにゃ! みんなシューのそばによるにゃ!」


 シューが叫ぶが、サブリナとエスメラルダが間に合わない。タケルとフィオーネが飛び退いてギリギリでシューの防御壁範囲に入った。


「サブリナ! エスメラルダ!」


「ソルトさん!」


「にゃにゃっ!」


 ダンジョンの天井に出現した雪雲から大きなつららが降り注いだ。俺たちはシューの防御壁でつららを跳ね返したが、エスメラルダとサブリナは大きな氷の壁の向こう側に……相手パーティーの陣地に取り残されてしまった。


「にゃっ!」


「きゃあ!」


 シューが放った火球が壁の向こうに逃げようとしたクララと捉えた。麻痺罠を仕込んだ火球が命中したクララは俺たちの方へと落下する。

 麻痺しているせいで意識はない。


「サブリナ!」


 名前を呼んでも聞こえない。クララが作り出した大きな壁に阻まれてあちらの様子はわからない。


「だめにゃ。クララを捕縛して深層で合流するにゃ」


 戦士であるエスメラルダがいるんだ……隊長であるクララを失ったパーティーくらいになら……勝てるか……最悪でも命は守れるはずだ。


「サングリエ、タケルの洗脳解除を。シュー、クララを捕縛してくれ」


 シューはささっとセーフティーゾーンの中に魔法陣を描くとその中にクララを閉じ込めた。そして、万年氷が埋まった杖を手に取ると「もらうにゃ」と悪い笑顔になる。

 

「タケル、魅了してくる女はいなくなった。魔物の退治を頼むぞ」


「了解」


 俺たちは深層への道を探すためにダンジョンを歩き回る。クララが作り出したあのバカでかい氷の壁さえなければもっと楽なのに。

 おそらくだが、氷の壁の中に俺らを閉じ込める予定だったなら……こちら側に深層への入り口はないかもしれない。


「ナディアを連れてくるべきだったな」


「そうですね……。あの氷の向こう側に深層への入り口があるとなると私たちはここで詰み……」


「魔物を集めるけど……無理やり入り口を作る方法はあるにゃ」


 シューはクララの杖を氷の壁に突き刺すと何やらブツブツと唱え始める。


「ソルト! くるぞ!」


 タケルが大きな声を出した。 フィオーネと俺は剣を抜き構える。まるでシューの魔法に引き寄せられるように魔物たちがわらわらと集まり始める。

 中型コボルト、大ゴブリンや毒牙タイガー、大型の魔物たちが次々と襲ってくる!


「こいつら……シューちゃんの魔法の音に集まってるんだわ。一体いつまでかかるの!」


 フィオーネが悲鳴に近い声を上げる。

 それもそのはず、彼女が一人で相手にしているのは大蛇の変異種で5つの頭を持つボス級の魔物だ。

 俺はフィオーネの足元によってくる小型の魔物を弓で倒しながら応戦する。


——サンダースラーッシュ!


 閃光と共に5つ首の大蛇が斬り伏せられるも後ろから新しい大型モンスターが顔を出す。


「これって……壁の向こう側でも同じことが起きてる……ってことは」


 サングリエがシューを急かすように叫んだ。


「サブリナさん! エスメラルダさん!」


「よそ見すんな!」


 俺がサブリナに気を取られている間、タケルが俺をかばうように戦っていた。俺は急いで弓を構える。

 シューに近づく大きな毒蛾を撃ち落とし、それから自分の足にへばりつくゴブリンを斬り伏せた。

 

——生きていてくれ……サブリナ、エスメラルダ


 戦っても戦っても魔物たちは俺たちに襲いかかってくる。最高峰の戦士が2人いても処理が追いつかない。

 

「もうちょっとにゃ!」


「フィオーネ!」


 大きく口を開けた大蛇の喉に俺の矢が突き刺さって、ギリギリのところでフィオーネは致命傷を免れる。

 タケルが飛び上がって奇妙なスキルという技で魔物たちを殲滅していく。


「やっぱあいつすげぇな……」


 消し炭になって消えていく魔物たち。あぁ、でもこれって……


「あいつの最終奥義じゃなかったか」


「すまん、使っちゃった」


 タケルが地面に降り立った時、ちょうどシューが氷の壁に穴を開けた。人が通れるだけの隙間だ。


「ソルト!」


 シューが悲鳴をあげる。

 戦いの余韻もなく壁の向こう側へと視線を向けた。


「なんだ……これ」


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