第190話 迷探偵レオナルド(1)

 古書店のソファーに座って難しい顔をしているこの男は保安部のレオナルドである。タバコをふかして、男同士でこうやって過ごすのは久々だ。なんせ俺の家には女ばっかりが出入りしているのだ。


「あれ、サングリエさんは?」


「今日は商談があるとかで、今はいないよ」


 残念そうなレオナルド。まぁ、サングリエはかなりモテるタイプだからな。


「レモネードおかわりは」


「頼む」


 俺は台所の冷蔵室からレモネードを取り出してテーブルへと持っていく。レオナルドはくろねこ亭からテイクアウトした料理をもりもりと食べている。


「それで、これは俺が掴んだ情報なんだけどさ」


「はいはい」


 俺は彼の話に期待はしていない。彼は保安部の中でもかなりの下っ端で、特に色々な権限もないらしい。

 

「例の貴族殺しだが……一件関係のない家柄同士に見えるが、超昔……エンドランドが建国してすぐの頃関わりがあったとされていてな」


「どういうことだ?」


 レオナルドは唇についたケチャップを拭った。


「エンドランドを建国するにあたってここに根付いていた原住民を《排除》する必要があったわけだ。過去の資料じゃ、極東人に似た原住民やエルフなんかがいたらしい」


 少し、興味が出てきた。


「エンドランドを建国したときにその原住民たちを排除したことで成り上がった家系が……今殺戮されているってわけだ」


 つまりは原住民を殺すことで実績を上げた家系が貴族の称号をもらった。それらの末裔が殺されているってことらしい。


「コンベルトは? 薬師の家系だろ」


「それが謎なんだよなぁ」


 だと思いましたよ。


「でも、犯人の目星はついているんだ」


「あーはいはい」


 レオナルドは食っているものを飲み込むと静かに言った。


「薬師幹部のミコ・サルースだ」


——はぁぁ?!


 俺は思わず馬鹿げた声が出てしまった。

 ミコは確かに嫌な女ではあるが貴族を殺戮するようなバカではないだろう。


「極東風の原住民とエルフ。どっちの特徴も持っているし、彼女はコンベルト……に恨みがあったのかもしれない」


 無理やりひねり出しただけか。


「お前の予想では、昔殺戮されたエンドランドの原住民の復讐が目的で犯人はおそらくその原住民の見た目の特徴である極東風かエルフ。エルフの方が可能性が高いと思っている。それで当てはまるのがミコさんってことか」


「そうそう!」


 レオナルド……お前はそんなんじゃ一生上には行けないぞ。

 と思いながらもあながち的外れではない、と俺も思っている。ミコではないと思うが。


「確かに、少しの関連性がある。というのは認めよう。よくやった」


 なんで俺が上から目線なんだか。

 でもなんか、楽しくなってきたぞ!


「もっと深掘りするにゃ」


「シュー」


 シューはこういうときすごく頼りになる。俺なんかよりも洞察力も推理力もあるのだ。


「多分だけどにゃ、その原住民の排除は殺すだけが目的じゃないにゃ」


「つまりどういうことっすか?」


 レオナルドは首をひねった。


「人体実験にゃ。奴隷かもしれにゃいけど……」


「そうか。殺す予定だった原住民を実験台にしたり、奴隷にしていたのかもしれないにゃ。ジェフたちが殺されたのはそういう理由なんじゃないかにゃ」


「もっと深いこと調べるにゃ」


 レオナルドは元気よく返事をした。

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