第189話 対戦相手(2)
タケルを俺の農場にある家に軟禁して、俺たちは対戦相手の情報集めに翻弄した。例えば、クララは氷の魔法が得意だが、シューのような罠魔法や防御系の魔法は苦手らしい。
そして彼女の持つ杖は万年氷が埋め込まれておりそれを使用するらしい。
「逆に相手の鑑定士は罠や毒、虫を使った攻撃に特化しているか」
俺は全く虫に関しては知識が浅い。
こういうときに「万能型」であることを後悔してしまう。剣術や魔術が少し使えたところでプロフェッショナルにはかなわないのだ。魔物相手ならまだしも……。
「じゃあちと勉強でもしていくか」
俺は古書店へ向かい、虫系のあれこれに関して勉強を進めることにした。
目に見えるものから見えないような小さな虫まで本当に様々だな。
「昏睡虫か……厄介だな」
大きさはリンゴの種くらいで人の血を吸う。血を吸う代わりに人間を昏睡させる成分を持つ唾液を注入する。非常に厄介な虫だ。
ダンジョン内に自生している生物だから、基本的には魔術師の防壁魔術で防げるが、戦いの最中に相手がこれを使ってくるとなると……非常に厄介だ。
「こっちは……眠り虫に麻痺羽虫……うーんどれもこれも厄介だな」
「ソルト、独り言がすごいにゃ」
「悪い悪い」
「はい、ホットワイン」
「ありがとう、サングリエ」
「そうそう、サクラちゃんとミーナさんが様々な毒に聞く薬を作ってくれているらしいの。私だけじゃなく全員に持たせる予定よ」
サングリエはいつも頼り甲斐がある。本当に頭が上がらない。
ホットワインは俺好みの少し甘めで、多分サングリエが作った焼き菓子がとてもよく合う。
なんというか、心がホッとする。
「そうだ、ヴァネッサさんがもう少ししたら来る頃かしら」
「なぜ?」
「うふふ、内緒」
「なんだよ」
そんなことを言っていたら、古書店の扉が開いてウィンドチャイムが鳴った。サングリエが腰巻のエプロンをつけて出迎えにいく。
聞きなれれた声はヴァネッサとクシナダのものだった。
「そうだな、冷たいレモネードとクシナダは」
「わ、私はお茶がいいです。生暖かいやつ」
クシナダの独特なオーダーに俺は吹き出しそうになる。サングリエは「お菓子も用意するわね」とクシナダに返事をして、俺が座っている方に二人を案内したようだ。
ひょっこりと顔をだしたヴァネッサがニヤリと微笑む。
「いい嫁さんだな」
「違いますよ、幼馴染です」
「そうは見えないぞ。男女二人、睦まじく密室で……」
ヴァネッサの冗談はなんというか冗談っぽくないので困る。クシナダが勘違いしたらどうする気だよ。
「で、本題は?」
「私はサングリエに頼まれて色々と持ってきたんだ。君にだけ話すわけにはいかないよ」
まるで言葉遊びでもするようにヴァネッサは言った。その横でクシナダがバリバリと焼き菓子を口に放り込んでいる。
人目につかない場所だとこうやってたくさん食べる。ヴァネッサはクシナダを愛おしそうに眺めている。
「最近はよくナディアに会えるのでな。嬉しい限りだよ」
「研究部への配達はほとんどナディアがしてくれてるんです。彼女、本当に可愛いんですよ。ナデナデすると喜ぶから」
クシナダは平和な笑顔を見せたが、俺は研究部のグロい一面をまだナディアには見せたくない。そもそも、人狼のたまごを実験目的で持ってきたというのも知られたくないし。
「お待たせしました。はい、ご注文のお飲み物です」
レモネードに生暖かいお茶。ヴァネッサは軽く口をつけて、バッグの中から何やら腰にくっつけるような変なアクセサリーを取り出した。
「そんな顔をするな、怪しいものじゃない」
「私が作ったんです!」
クシナダは目をキラキラさせて俺の方へぐいぐいと迫ってくる。口の周りが焼き菓子の粉だらけだ。
「で、これは?」
「虫除けです」
——虫除け
これをベルトにくっつけているだけでほとんどの虫は寄ってこなくなるらしい。罠戦士のクシナダが作った魔物用の罠を簡素化したものでヴァネッサが加工したらしい。
「リアさんから相手の鑑定士の情報をもらったのでそれを元に作ったんですよ。えへへ〜」
えへへ〜。って……。クシナダはサングリエにヨシヨシされて嬉しそうだ。
「人数分か、ありがとう」
「お前の給料から天引きしておいたから大丈夫だ」
「……?!」
俺は思わずホットワインを吹き出した。
俺の給料そこそこ少ないのに……。
「嘘だよ」
(嘘かよ!)
「クシナダ、それを全て食べたらお暇しようか」
「ふぁい」
クシナダは俺の分のほっとワインまで飲み干して、満足げに頷いた。虫問題はある程度解決しそうだな。
「そうだ、冒険者用の罠だが……もう少し待ってくれ」
「ありがとう」
「いいさ、可愛いクシナダのため」
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