第188話 対戦相手(1)

 今日はレースの顔合わせの日だ。ギルドの一番広い会議室、でかいテーブルを挟んで俺たちと睨み合っているパーティは屈強な戦士やいかにもな魔女、そして超絶セクシーな女……。彼女が例の色魔女の血を持つ人らしい。

 俺はフィオーネと彼女を見比べてみる。なんで同じような出生なのに、フィオーネには色気がないのか。

 当の本人はニコニコ楽しそうにしている。フィオーネはバカ丸出しである。


「では、この2パーティーでレースを行うことに決まった。レースの目的は同じダンジョン内でより希少なアイテムを手に入れることだ」


 取り仕切っているのはギルド長のアロイである。


「ねぇ? 私がいいことしてあげるから辞退してくださらない?」


 セクシーな彼女は俺とタケルに向かって言った。シャーッとシューが威嚇をする。サブリナは眉間にしわを寄せ、エスメラルダは軽蔑の視線を彼女に向ける。

 サングリエは呆れたため息をついて、タケルはじっと空を見つめている。


「悪いが、それはできないな」


「クララやめろ」


 セクシーな彼女はクララという名前らしい。


「いいことってなんですかね」


 阿呆なフィオーネに反応する人はいない。フィオーネは一人で首を傾げている。タケルがぼうっとしてるのは俺が洗脳薬の飲ませているからだ。

 タケルを信用していないわけではないが色香に惑わされるのは目に見えているので仕方なく……な。


「じゃ、顔合わせはOKだな。明日の昼前にギルドに集合。持ち込み資材は自由だが、直前の増員は認められない。万が一、負傷者が出た場合は変えを用意してもいいか必ず申告すること」


 解散となった後、サブリナと俺は目配せをして自分のパーティーを古書店へと案内した。


***


「まずは隊長、クララ・マッケンシーね」


 まさか、とは思ったがサキュバス(現在では色魔女)とエルフのハーフで魔術師の彼女があのパーティーの隊長らしい。彼女が魔族とエルフをパーティーに入れるという条件を一人で満たしている。

 彼女以外は全員男だったところを見ると色香で支配でもしているのか。


「彼女は……えっと氷魔法を得意とする魔術師でかなりのやり手ね。一人でコボルトの変異種の動きを止めたこともあるらしいわ」


 シューが「そのくらいならシューの方が上にゃ」と鼻息荒く言った。


「次は副隊長。戦士のアーノン・リッカー。彼は現S級戦士の中でタケルさんの次に実力があるとされる戦士でクララとの連携術を得意としている。短いナイフを両手にもって戦う双剣使いでスピードはタケルを優っていると言われているわ」


 洗脳を解かれたタケルが「俺のライバルだ」と息巻いた。


「回復術師はゲン・スギタ。彼は万能タイプで最前線で戦闘をしながら仲間の回復をできる戦闘特化のスペシャリスト。サングリエさんも知ってますよね」


 サブリナの言葉にサングリエが頷いた。「嫌味っぽくて嫌な奴」らしい。


「鑑定士はリク・ラウンド。わずか16歳にして史上最短でS級に昇格した天才少年です。ソルトさん、説明を」


 サブリナに話を振られて、俺は親父から得た情報を皆に共有する。


「リクは、昆虫に特化した鑑定士だ。いわば超攻撃型の鑑定士。S級に合格するほどの知識を持ちながら、あらゆる面から虫を使って攻撃してくる厄介な相手だ。俺の方で対策は立ててあるが十分注意してくれ。基本、《攻撃されて傷を負ったら必ず報告》してくれ」


「なぜでしょうか」


 フィオーネにしてはいい質問だ。


「相手の刃に厄介な寄生虫の卵や毒が塗られている可能性がある。ダンジョンに入る前にある程度の予防はしていくができるだけ……気をつけてくれ」


 毒霧散布や小さな昆虫を使った毒針攻撃などを避ける方法は考えてはある。


「あんまりこんなことは言いたくないが……攻撃を食らったら殺すつもりで迎撃する。いいな」


 全員が覚悟を持った顔で頷いた。サングリエが優しくエスメラルダのフォローをする。正直彼女が一番危ない。


「ソルト、しばらくヒミコのところに行ってきていいかにゃ? ちょっと覚えたい術があるにゃ」


「あぁ、いいぞ」


「私は引き続き相手パーティーの情報を探りますね」


 シューとサブリナが古書店を後にした。タケルは誘惑されたら困るので俺と行動してもらう。エスメラルダとサングリエは農場へもどるようだ。


 あのクララとかいう魔術士。なんだか嫌な感じがしたな。


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