第185話 猫女(2)
「まぁ……可愛い」
猫又の子供を抱っこして可愛らしい笑みを浮かべているのはワカちゃんことワカヒメだ。ヒメとソラのアイデアは
——いつも寂しがっているワカヒメ様に相棒を
と言うものだ。猫又というのは大変長寿な生き物で、極東ではよく見られるらしい。そもそも、シノビの中には猫又が多く存在していて特に諜報機関には地獄耳な猫又がよく採用されているとか。
いずれワカちゃんの護衛もできる相棒がいれば安心だろうという意味も込めて。
「猫又の子供です。えっと、俺の家の温泉に迷い込んでいたところを発見しまして」
ワカちゃんは子猫を抱き上げると頬ずりをした。子猫もワカちゃんも可愛い。
「おなごですぞ」
ハクがなぜか照れている。そして「きっと美人になります」と言ってニヤついている。ハクはどうやら女の子同士が絡んでいるのを見るのが好きらしい。
「この離れには私と護衛のシノビ以外はおりません。とてもさみしいのです」
ワカちゃんはそう言うと、豪華絢爛な部屋を眺めた。
様々なインテリアや異国のものと思われる骨董、飾り付けられた振袖や帯はどれも煌びやかで目が痛くなる。
「この子は私の相棒になってくれるでしょうか」
「ええ、きっと」
子猫が「みゃお」と鳴いた。
温泉で発見したときよりもずいぶん元気になってふっくらしている。子猫らしい細くて柔らかい毛も滑らかでふかふかしていた。
「おでこの匂いがオススメです」
「おでこ?」
俺は子猫をワカちゃんの手からそっと抱くと子猫のおでこに鼻をくっつけて息をすいこんだ。子猫の匂い。なんとも言えない優しい香りが鼻腔いっぱいに広がった。
俺は動物に詳しくないから確証あることは言えないが……
「これは、母猫や共生する人間に自分を愛しいと思わせる成分が混ざった匂いだと思っています」
「どういうこと?」
ワカちゃんは俺の真似をして子猫のおでこの香りを嗅いだ。
「まあ」
「子猫は非力で……一匹では生きていけないです。だから、自分を愛してもらえるように好いてもらえるような香りを出すんです」
すぅ、すぅ。
ワカちゃんは子猫の香りを吸い込んで、とろけたような顔をした。
「私も、この子が愛おしいです」
よかった。
「そうだ、名前を考えないと」
ワカちゃんは俺の顔をじっと見て何やら企んでいる。おぉ、これはまさか?
「決めました!」
俺は思わずがくっとこけそうになる。「名前をつけて」とか言われるのかと思いきや……? ワカちゃんらしい。
「名前はククリです」
ほぉ……ヒメよりかはセンスがいいな。
「この子は私を守ってくれるのですから、ククリ様のお名前をいただいて……ふふふ。よろしくね、ククリ。私はワカヒメ。あなたの親友にならせてね」
ちらり。
誰かが部屋を覗いている。
あぁ……犯人はわかっている。
「ねぇ、ソルトさん。もう一匹、猫又はいないのぉ?」
イザナミである。
ワカちゃんの腕の中の子猫を愛おしそうに眺めながら口をへの字にして俺に迫る。最近、シキを通していろんなものを食べてストレスを発散しているせいか体調が良いらしい。
「ずるいわ、ワカヒメちゃんばっかり」
地団駄を踏む王妃様。苦笑いの俺とワカちゃん。
この社はいつか猫屋敷になるんじゃないか……?
「にゃにゃっ」
イザナミに抱き上げられたシューが呆れたような声を出したが、イザナミに喉をこすらせてたまらずゴロゴロという。
「たまらんにゃ」
「ふふふ、私はこう見えてお立場のある人なのよ。ふふふっ」
「にゃにゃにゃ〜!」
シューがそっくりかえって気持ちよさそうに足を伸ばした。あぁ、ここの平和な感じ……いいなぁ。
「困ったことがあれば、いつでも連絡してください。うちの獣医師がすぐに対応しますんで」
「ありがとう、ソルトさん。あの……私とククリにまた会いにきてね」
ワカちゃんの熱い視線にも慣れたもんで。俺はいつも通り挨拶をしてポートへ入りエンドランドへと戻った。
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