第184話 猫女(1)
「シューちゃんってケットシーよね?」
リアの質問にシューは顎を上げて得意げに答えた。
「そうにゃ。エンドランドでは魔物とされてるけど本来は妖精にゃ」
そうなのか。
とはいえ、シューと巡り合った時、彼女はひとりぼっちで俺に近寄ってきたんだよな。で、捨て猫を拾うような感じで俺が仲間にして……ダンジョンから出てびっくり。S級魔物のケットシーだった。
「妖精かぁ」
リアは人肌にあたためたミルクをシューの前に置いて自身はホットワインを手に取った。
「そうそう、シキちゃんにもいっとくけどシューは猫又じゃないにゃ」
シキ(中身はイザナミ)は笑顔でうんうんと頷いた。リアが入れたお茶を飲み、ソラが握ったオハギを食べている。
シキがうちに住むようになってからなんだか極東出身たちの様子がおかしい。それもそのはず、この人の中身は王妃様なのだ。
「猫又ってのは極東由来の猫の化け物だ。まぁ、ケットシーとそう変わらんだろう」
俺の言葉にシューは不満げに尻尾を揺らす。キッと睨むような瞳が怖い。悪気はなかったのになぁ。
「猫又ってのは普段は人間に化けていて、シュー殿みたいに耳も尻尾も隠すことができるのでな」
ヒメはなんだか誇らしげだ。
シューは軽く唸って機嫌を損ねてしまう。
「ソルト、お風呂にはいるにゃ」
「へいへい」
俺はミルクを飲み終わったシューを抱き上げて温泉へと向かった。いろんな植物の手入れをしっかりしているおかげで気分良く湯浴みができる。
ヒメが欲しがっている「五右衛門風呂」はどうしてやろうか。樽の中に入るというのはちょっとわからない感覚だが極東出身の人に聞くと、入れば最高の気分になれる魔法の風呂だと言う。
「あったまるにゃぁ」
「そうだなぁ」
ヒメたちが雰囲気でつけたシシオドシがカコンといい音を立てる。頭の上に乗っけた手ぬぐい、こっそり持ち込んだ酒。最高の湯だ。
「にゃにゃっ!」
シューが尻尾をぶわっと膨らませて警戒する。
おいおい、勘弁してくれよ。
「ソルト、シシオドシのところに何かいるにゃ」
「何かってなんだよ」
「ソルトが見てくるにゃ」
俺はしかたなく、飾りで置いているシシオドシの方へと移動する。カコン、カコンという音に混ざって小さな鳴き声が聞こえる。
細く、小さく消え入りそうな鳴き声だった。
——ミー……ミャオ
「ねこっ?」
俺はシシオドシの影で怯えていた小さな子猫を抱き上げた。体は震え、そして怯えた様子だった。
「シュー、ゾーイを呼んできてくれないか」
「にゃあ〜」
***
ゾーイは魔物や動物の医師としてギルドで活躍をし始めていた。今までは、引退した医師や薬師なんかが惰性でやっていたことをゾーイは新しい部署として立ち上げることで、よりよいギルドを作って行きたいらしい。
女王のラクシャが動物や魔物を愛する人だったこと、そしてゾーイがうまく彼女に取り入ったことでギルド永久追放の罰は撤回された。
「大丈夫よ、少し衰弱しているけど……発見が早かったおかげね」
ゾーイは医師らしい白衣のままで牧場の方から飛んできてくれた。子猫はシューと一緒にミルクを飲んでいる。
茶トラ柄。女の子だそうだ。
「かわいい」
うちの女たちには大人気だ。特にシキはテンションが上がって一瞬消えかけたほどだ。
「ユキ、優しくね」
「わかってるよ」
ウツタとユキが優しく子猫を撫でる。子猫はピンと尻尾を立てて二人に挨拶をする。なんて可愛らしい光景なんだ……。
「えへへ〜、ナディアと遊ぶ〜」
ナディアはクンクンと子猫の体を嗅ぎ回す。すぐにリアに止められてナディアは耳をたらりと残念そうに下げた。
「この子のお母さんが心配しているんじゃないでしょうか」
フィオーネが珍しくまともなことを言う。ゾーイがそれに軽く答えた。
「まだ幼いから貰い手を探す?」
「えっ、ダメですよぉ。うちで買うんですぅ」
ウツタが口を尖らせた。まぁ、別に飼ってもいいんだけどさ。
「簡単には買えないにゃ。その娘は猫又にゃ。そうだにゃ? ゾーイ」
ゾーイはゆっくりと頷いた。
「まだ幼いから人間には変身できないわ。きっと、極東からの荷物に紛れ込んでしまったんじゃないかしら」
「そうじゃ、いい案があるのじゃ!」
ヒメがキラキラした瞳で俺を見つめている。
非常に嫌な予感……こいつはろくなこと言わない。
「それはのぉ……」
ヒメとソラが顔を見合わせてとある提案をした。
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