第181話 貴族殺し(1)

 サブリナが訪ねてくる予定だ。

 俺は執務室で図鑑を広げながらダンジョンに自生する新しい植物について研究を進めているところである。

 ミーナの方はロームとの定期郵便を提案するために女王提出用の企画書を作っている。


「そういえば、あの貴族殺しの件。犯人はまだ見つかってないんですって」


「俺は貴族じゃなくてほんとよかったですよ」


 この貴族殺しの件で沢山の戦士たちが護衛のために引き抜かれたらしい。犯人がなんの目的があってこんなことをしているのか俺には全くわからない。

 

「あの二人組は絡んでいるんでしょうか」


「そうね、洗脳やらなにやらって考えるのは犯行が完璧すぎる気がするわ。それに、あんな風に……残酷な殺し方をしなくてもいい気もする」


 残酷に殺すことが目的だとすれば……?


「それに、あの二人組が絡んでるとしてもあの人たちは直接犯行を犯さない。依頼を受けているだけと思われるわ。つまり、二人組を追っても犯人にはたどり着けないってわけ」


 ミーナの言う通りだ。


「でも、むやみやたらに貴族を殺しているというよりは……何か目的があるような殺し方ですね」


 ミーナは「そうね」と返事をしながらもこの話題をやめたいようだった。


「こんにちは」


「どうも」


 サブリナが気まずそうに入ってくる。


「あぁ、すまんすまん」


 俺はサブリナをソファーに座らせてエリーにお茶をお願いした。エリーは秘書用の部屋から出るとサブリナの好みの番茶を用意しに給湯室の方へと歩いていく。


「さて、今日はこの空中浮遊する寄生虫についてだ。これは冒険者が持ち込んだ水やコメ、小麦なんかに紛れ混んで卵を産み付ける。やっかいなことに……」


 俺は俺たちがいくダンジョンに生息しているであろう寄生虫や植物について新しく情報を得たものをサブリナと共有する。

 正直、この執務室がとても安全なのである。


「では、持ち込みはできるだけ?」


「あぁ、卵を除去すれば問題ない。除去用の薬剤を持っていけばいいだけさ」


 俺はミーナの薬棚からいくつか瓶を勝手に取り出してサブリナの前においた。ミーナは「どうぞ」と言っているがちょっと不満げだ。


「薬師と仲良くなっておくとこれからの冒険でもすごく役に立つよ」


 サブリナは必死にメモを取っている。


「お茶、どうぞ」


「ありがとう、エリー」


「ありがとうございます」


 エリーはお茶受けのせんべいをテーブルに置くと秘書室の方へと下がっていった。彼女もかなり忙しいらしい。


「そうだ、ここにくる途中……保安部の男性がソルトさんに会えないか〜って騒いでましたよ」


 サブリナはせんべいをかじった。げっ歯類みたいで可愛らしい。


「あぁ、レオナルドか」


「ちょっと行ってくる」


 俺は執務室を出て、流通部の入り口受付に向かった。そこではアポのないレオナルドが受付の子に文句をつけていた。

 全く……。


「その人は俺のお客さんだ。すまないね」


「おぉ、すまんすまん。ちょっと新しい情報が入ったもんでね。ほら、例の貴族殺しのさ」


 いつ俺が情報を持ってこいっていった? 

 このプチ探偵はなぜか俺に粘着していやがる。


「そうだな、2時間後貧民街にある俺の古書店に来れるか」


 レオナルドは「了解」と言って保安部の方へ戻っていく。保安部ってのは暇なのか……。いや、あいつが暇なのか。

 俺はサブリナとの勉強を終えて、くろねこ亭でまかないを二人分テイクアウトして古書店へと向かった。

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