第175話 優秀な売り子(1)


「すごく嫌な予感がするんですけど」


 俺の言葉を聞いても眉ひとつ動かさないのは可愛い少女のような見た目なのに仏頂面で有名な戦士幹部エスターである。

 この人が俺のところへ来る時、大抵面倒な事を持ち込んで来るのだ。


「なに、今回はそうでもないぞ」


 今回は……って。


「新人の戦士なんだが身寄りがなくてな。フィオーネと一緒にここに住まわせてほしい。気立ての良いエルフの女性だ」


「それなら戦士部でめんどうをみてはいかがでしょうか」


「いや、彼女は戦士部で手厚く育てるには値しない」


 実力がない子をなぜ、このエスターが特別扱いする?


「私はそんなに冷酷な女に見えるか」


「はい」


 ピクリ、とエスターの眉が動いた。


「いや、君の言う通りだ。君には退役した戦士たちが随分お世話になっているおかげで私が勘違いしていたようだ。忘れてくれ」


 エスターは執務室から出て行くとエリーに何やら声をかけたようだった。


「よかったんですか。くろねこ亭の人手が足りないと言っていたじゃないですか」


「戦士は不器用ですし、頭が悪いので……力仕事しか難しいです。となるとすでに受け入れている退役した戦士だけで十分です」


 ミーナは「そうよねぇ」と言いながらも少し残念そうだ。エスターと仲良くしているから気まずいのかもしれない。

 まぁ俺が断ったところでフィオーネが拾って来るに決まっているのだ。


***


「えっと……エスメラルダといいます」


 その子は戦士にしてはほっそりした感じの綺麗なエルフだった。エスターが実力不足というのもなんとなくわかる気がする。

 そして、戦士らしくない。優しい気の弱そうな笑顔はどちらかといえばサポート系と言った感じだ。


「ソルトさん、今日からエスメラルダにはくろねこ亭でお手伝いをしてもらうことにしましょう! お試して働いてもらったんですが上手なんですよ!」


 隣でリアがうんうんと頷いている。


「うなぎと焼き鳥の焼き担当をお願いしようと思うの。とても筋がよかったですし」


 リアが言うんならそうなんだろう。


「えっと……ご迷惑はおかけしません。私は、戦士としても未熟ですし……皆さんのお役に立てて……住む場所がもらえるだけで嬉しいですから」


 エスメラルダは控えめな感じで、面倒ごとを持ち込む感じではない。


「シュー、一応検査を」


「検査?」


「あぁ、洗脳や変化……まぁその他色々」


「わかりました。お願いします」


 エスメラルダは様々な検査のためにシューとフィオーネとともに温泉施設の方へ向かった。

 エルフの戦士か……珍しいな。エルフといえば基本的には魔術師や回復術師が多かったりする。

 でも、グレース女王の話じゃエルフは人間と違って「覚醒」することがあるらしい。エンドランドでは人間と同じように14歳〜16歳くらいで天職を確認するのだが……エスメラルダは一体何歳で戦士だとわかったんだろうか。

 そもそも、なぜエスターがこの子に目をかけているんだろう。


「あ、ソルトさん色々考えてますねぇ?」


 リアに考察しているのがバレた。


「エスメラルダちゃんはエスターさんがダンジョンでの魔物討伐で助けた子なんですって。エスメラルダちゃんのパーティーは全滅。本当ならS級の腕はあるけれど記憶喪失になっていてうまく力が出せない。そう言ってましたよ」


 あぁ……それでエスターが。

 ってなんであいつは俺に説明しないんだよ。


「ですから、うちでゆっくりして力を取り戻してほしいなって」


 リアは「戦士っぽくない感じも採用理由です」と言ったが本当にそうだ。控えめな感じも良い。


「じゃあ、本格的にウナギ売り始めるのか?」


「そうなんですが、実は最近パスタが大人気で……。うちの小麦を使ってパスタを作りたいんですが……ロームに行って製麺機をもらってこないと」


 グレースに何を持っていくか……。


「よし、俺が交渉してくるよ」


「ありがとうございます!」


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