第171話 ハクの不思議体験(1)
温泉でゆっくりしている俺はシューから延々と出てくる抜け毛を流しながらほっこりとあったまっていた。
「シュー、換毛期だなぁ」
「そうにゃ、体全身がムズムズするにゃ」
「しゃーない、ほらもっかい」
「んにゃ〜」
シューの毛は無限に出てくる。これこそ猫ちゃんの神秘。そう言えばイザナミの綺麗な着物が毛だらけになってたっけ。
「ソルトさん!!」
「ぎゃっ!」
俺はあまりにも驚いて温泉に飛び込んだ。女の子が男湯に入ってくるなんて流石にやばすぎやしないか?!
真っ白な肌に真っ黒な髪、可愛らしい顔をしたハクはもう血の気が引いてしまってなんか青くなっている。
「で……出たんです!」
「何が!」
「ゆ……幽霊が! 出たんです!」
呆れかえって温泉に戻るシュー、それでもハクは本気のようでわなわなと震えている。
「わ、わかった。わかったから。出ていってくれるか? ほら、俺風呂入ってるからさ……?」
「す、すみませんでしたー!」
まるで風のように去っていったハク。
「幽霊ってなぁ……」
「この農場に何かが侵入した痕跡はないにゃ。もちろん、幽霊と呼ばれる魔物もいないにゃ」
人々が幽霊と呼ぶ魔物はダンジョン由来のものが多い。たとえば吸血鬼とか。
でもそれは昔、すごく昔にまだこの国の領地全てのダンジョンの入り口が閉じられる前の話だ。
極東ではまだ幽霊がいるっていう話があるが……ハクは幽霊をそのせいで信じているんだろうか。
「どうせ思い違いにゃ」
「あぁ、話は聞いてやるか」
俺は手ぬぐいを頭に巻いて温泉を出ると脱衣所に戻って体を拭いた。もっとゆっくり体を休めたかったんだけどなぁ。
まぁ、ハクはいつも問題を起こさずに頑張ってくれているし……きっといたずらで嘘をついているってことはないからなぁ……。
俺がリビングに行くとハクがブルブルと震え、サングリエが彼女の背中をさすっていた。
「ハクちゃんが何か見たんだって」
「ハク、シュー曰くここには許可のあるやつら以外入った形跡はないってよ」
「でも見たんです!」
ハクは牧場で絞ったミルクをウツタとユキが冷やしてくれている地下室へ運んでいる最中だった。
地下室の奥で物音がしてハクがのぞいてみると……
「髪が長い白い着物を着た女がいたんです」
「ウツタかユキじゃなくて?」
「違います! 今日はウツタさんもユキちゃんもくろねこ亭です」
「見てきたんだけど誰もいなかったわよ?」
サングリエはワイナリーから地下の倉庫へワインを運ぶ最中、ここで怯えるハクに話を聞いて地下室を見にいったらしい。
そこには誰もいなかったし、いたような痕跡もなかったそうだ。
「シニガミかもしれんのぉ」
「ひぃぃっ!」
「ヒメ様……なんてことをいうんですか」
ヒメが意地悪な笑みを浮かべたが、ハクはわんわんと泣き出してしまった。慌てふためくソラ。サングリエは苦笑いをした。
「じゃあ、シュー。見に行くか」
「めんどうだにゃ」
「ほい」
俺はシューを抱き上げて地下室へと向かった。
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