第170話 にゅるにゅる(2)
「獲れた〜!」
農業用の水路で大騒ぎしているのはナディアと子供達だ。掴めそうで掴めないにゅるにゅるのうなぎを捕まえるのが楽しいみたいだ。
「とったらお兄ちゃんがウナギの混ぜ飯作ってくれるんだよ〜!」
そう、リアが出したアイデアというのは……
「ギルドへ販売する限定弁当で出すというのはいかがでしょう?!」
前日に獲れたうなぎを取れた分だけ教えてもらった蒲焼きにする。それを重箱という四角い箱に詰めてうな重をギルドで販売する。
その前に、うなぎのうまさを知ってもらうため、俺たちは「うなぎの蒲焼の混ぜ飯」を作るのだ。
混ぜ飯は無料で提供。まずはうまさを知ってもらうのだ。
その後、うなぎを気に入った客にランチボックスよりも少し高い金額で販売する。ウナギを取れる数も限られるし、売れなかったら売れなかったで混ぜ飯にして夜、くろねこ亭の〆として販売してやろう。
***
「うまい! おかわり!」
くろねこ亭で俺は取れたウナギをさばいて片っ端から蒲焼きにした。そして暖かいご飯と混ぜる。
結構な量になったので、握り飯にして「極東ランチ」として販売してみると……?
「これは……ほんとうにあのうなぎなの?」
マダム達やギルドで働く人たちに瞬く間に広がっていった。くろねこ亭がまた美味いものを開発したぞ。なんてわらわら人が集まっている。
「これ、極東のうなぎ養殖と正式に契約した方がいいかもですね。大人気ですよ」
リアがにんまりとする。こいつの商売根性は本当にロクでもない。
「まぁ、うちの国にあるうなぎ卸しからちょっと高く買うってのもありだな。でも手間がかかるか……」
「そうですねぇ、うなぎも出すってなると人手が足りませんねぇ」
ということで一旦は保留。取れた分だけ弁当にして売るか、こんな風に限定ランチにして売る。
うなぎの商売も考えておくことにしよう。
「じゃあ、あとは頼んだよ」
「はーい、また古書店ですか?」
「いいや、ギルドから呼び出しだ」
ギルドというか、ミーナからだ。
俺はウナギの握り飯を持ってギルドへと向かった。シュバイン家を抜けてからミーナはすごく活動的で流通部の仕事がぐっと重みを増した。
鑑定士部と連携して極東との流通も拡大、将来的にはロームとも大きな流通網にする予定だ。
「あら、おいしい」
「うな重も是非、今度食ってください」
「ふふふ、これは誰でも好きな味ね。ほんと、くろねこ亭のランチはいいわねぇ」
ミーナは緑茶をごくりと飲み、そして仕事に戻った。
「そうそう、ヴァネッサもこういうの好きだったと思うわよ。あの子、極東系のお料理には目がないから」
ミーナは残ったランチボックスを見ていった。
しゃーない、届けてやるか。
俺は執務室を出ると研究部へと向かう。すれ違う人がランチボックスから漂う香ばしい香りに腹を鳴らすのがなんとも言えない優越感で俺はにんまりとする。
ヴァネッサの執務室をノックして返事がしてから俺は入室した。
いかにも研究部といった執務室は……正直気味が悪い。クシナダがなぜこんなところで働いているのか理解できない。
「どうした、美味しいそうなものをもって」
ヴァネッサは紫色の瞳をギラリと輝かせた。
「クシナダ姫への貢ぎものかな?」
奥にいたクシナダが「ほんとうですかっ!」といった。違う。
「いえ、今後販売予定のウナギに親しんでもらおうと思ってウナギの混ぜ飯を握りました。極東のお料理が好きだと聞いて」
「じゃあ、一緒に食べようか。クシナダ」
「はいっ」
「そうそう、ソルトさん。もしよければ極東の料理人に肝吸いの作り方を習うといい。ウナギの肝……内臓で作るスープでこのウナギによく合うとうちの極東出身がいってたのでね。是非、食べて見たい」
あぁ……極東では動物や魚の内臓も余すことなく美味しく食べる技術があるのは知っている。でも、研究部の執務室内でヴァネッサの口から「内臓を食べる」なんて聞くとなんか気持ち悪いな……。
「聞いてみるよ」
「あぁ。ミーナによろしく」
「ソルトさん、ありがとうございます」
クシナダとヴァネッサに別れをいって俺は執務室を出た。極東で料理について記した本があるかどうか探しにでもいってみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます