第168話 交流会館完成(2)
「お久しぶりです。ソルト様」
「あぁ、久しぶりです」
ワカちゃんは相変わらずの美人だ。新しくできた交流会館は極東の社のような建物で「五重の塔」というらしい。
エンドランドの大工と極東の「宮大工」が共同して作った建物でなんともいえない美しさがある。
内装は畳でできている階と、木の床でできている階があり、本当にこちらと極東の文化が入り混じっているようだった。
「もふもふ〜。シューちゃんはお日様のかおりねぇ」
「あはは、お邪魔しているよ」
俺はイザナギに深々と頭を下げた。シシ・アマツカゼの件では彼が寛容な判断をしてくれなかったら……どうなっていたことか。
「いいんだ。あの女王様の心を溶かしてくれたおかげで極東とも国交が再開しそうなんだ」
「ソルトさん……あちらの女王様と良い仲なのですかっ……王族は嫌だとそうおっしゃったじゃないですか」
ワカちゃんが目をウルウルとさせる。
その奥でニヤニヤしてるヒメは極東風のティアラを頭に乗っけて満足げであった。
「いや、女王様とはそういう関係では……」
「ほんとにほんとのほんとうですかっ!」
ワカちゃんは俺の胸ぐらを掴んでガシガシと揺らす。やめてほしい。
「はい、誓って」
「なら……いいですけどぉ」
「そうそう、ソルト君。おかげさまで王位継承の儀式が終わってね。正式にアマテラスが次期王……いや女王に決定したのだよ。僕たちは安心して隠居できるんだ。もちろん、しばらくはアマテラスのサポートをするんだけどね」
イザナミにこれ以上負担をかけたくないとイザナギは言った。
本当に奥さん思いの人だ。
「たまにはこうしてシューちゃんに会わせてあげたいなと思ってね」
いや……それはちょっと。
俺はイザナギの屈託のない笑顔を見ると思わず頷いてしまった。なんという爽やかさだ。
「そうそう、ここではこんな風にいろんなイベントや食事会を開いたりして僕たちのことを色々と知って欲しくてね。シノビたちを常駐させることになったよ」
「そうなんですか」
「ここで学びたいシノビは多いんだ。ハイカラなものが多いからね」
こっちでも極東のものが流行っている。極東風の絵画はオシャレだと言ってマダム達が買い漁っているし、俺も極東の食器をよく使う。あの湯のみってのは一番いい。すぐにあったかさがわかるし、何より飲んでいる姿が渋くていい。
「ヒミコも近々こっちを訪ねるって言っていたよ」
イザナギの言葉に固まるヒメ。
面白いくらいに冷や汗をかいておどおどする。
「ヒメさんにはここの館長として頑張ってもらってますし、俺もできることなら協力しますよ」
「ありがとう。そうだ、ラクシャ様と少し話してね。協定を結んだんだ。お互いが困った時は全力で助ける……と。我が国はツクヨミの件で多くの犠牲者を出してしまった。そして多くを助けてもらった。だから、この国と共に歩み必ず恩をかえすとそう誓ったんだ」
「そうそう、あの子が側近になるなんてねぇ」
「あの子?」
「そう、ほら極東の医師部に留学に来ていたお嬢さん」
俺はゾーイが恐ろしいと思った。あの武闘会での一件からラクシャに取り入っただけでなく、ギルド永久追放になっていたのを解除させて新しい部署を設立、さらにはラクシャの側近に成り上がった。
彼女のポテンシャルは半端ない。今は亡きリッケルマン家もゾーイをしっかりと育てていたら違う未来があったかもな。
「そうだ、ワカヒメ様にいつも贈り物をいただいていて……そのお礼をさせていただこうと思ってたんです」
俺はイザナギに礼をしてからワカちゃんの元へと向かった。ワカちゃんは一番上の階でひとりお茶を飲んでいた。
「とても美しい国ですね」
「極東には及びませんよ」
「そうかしら? 極東は背の低い建物ばかりでしょう?」
「ワカちゃん、いつも贈り物を貰っていて何も返せていないのでこれを」
ワカちゃんは嬉しそうな顔で俺が渡した包みを開ける。
「綺麗……ですね」
ワカちゃんはグリーンの宝石をつまみあげると日光に透かすようにした。太陽の光が緑色の光となってワカちゃんの顔を照らす。
あれはロームの採掘を手伝っている時に見つけた宝玉だ。といっても見つけた時は原石で輝いてはいなかった。
炭鉱担当たちに許可をもらってひとかけらだけもらい、古書店でくつろぎながら磨いたものだった。ゆっくり研磨すると輝きが増す緑の宝玉はいびつだし、到底アクセサリーになんてならないものだが……
「魔力を感じます」
「それはロームで取れた宝玉です。ロームではこれを持つと心が癒され平安が訪れると言われているそうです」
ワカちゃんは「まぁ」と言って宝玉を撫でた。
「私を案じてくれているのですね」
「ええ、開花したワカちゃんの能力を狙う者は多い。ワカちゃんは、自分がツクヨミを殺したと……追い詰めたとそう思っていると手紙に言っていましたね」
ワカちゃんはツクヨミたちを倒しに向かった俺のパーティーに奏の力をくれた。何十倍、何百倍もの力を得た俺たちがツクヨミたちを止めた(トドメをさしたのはアマテラスだが)
生け捕りにできなかったのは自分のせいではないのか……そんな風に悔いていたのだ。
「あんな風に自分を責めてしまいたくなった時はそれを握って、ワカちゃんの力は……殺しのために利用するものじゃない。守るために使われるものだと思ってください」
どんなことでもそうだ。
例の二人組のように鑑定士や薬師の知識や力だって殺すために使うこともできれば、俺たちのように守ることにも人を笑顔にするためにも使うことができる。
ワカちゃんの力は特殊で強力だからこそ思い悩んでしまうんだろう。
でも、ワカちゃんの力がなければ俺たちは死んでいた。
「それでは、辛くなった時に貴方に会いたいと……イザナギ様に泣きつけなくなってしまうわ」
「ははは」
「今夜は何が召し上がりたいですか」
「そうですね……エンドランドの名物が食べたいです。もちろん、ヒメちゃんやソラちゃん。みんなと一緒に」
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