第167話 交流会館完成(1)
ミーナがシュバインの名前を捨てた。というのはそこまで話題にならず、ほとんど勘当の形でミーナはシュバイン家を出たらしい。
かなり落ち込んでいるかな? と思ったが、ミーナはすっきりした顔で
「父と母は養子とるって意気込んでいたから心配いらないわ」
と笑っていた。
俺は流通部での仕事をこなしながら、今は古書店の整理をしている。ここには本を売りに来る人も多い。ソマリが隠れ蓑にしていたこの店は元々売り払う予定の人から受け継いだものらしい。
その元店主の人が紡いだ人脈はソマリだけでなく俺にも受け継がれ……本を買っている。
ギルドへ行く必要のない日の午後。一人の時間を楽しむ片手間に。
「サクラ、読み終わったか?」
「うんっ」
サクラが本を読みたいというので連れてきたが……彼女の吸収力は凄まじい。鑑定士と薬師の天職を持っているだけある。おそらく、医師たちにも劣らない優秀な子になるだろうなぁ。
おそらく、フウタとサクラは血縁関係ではないんだろう。
「ここたまにきてもいい?」
埃とカビの匂いがする古書店なんて子供の来るところじゃあないが、サクラは気に入っているようだった。
俺も嗅覚が鋭いくせに、こういう香りは好きだったりする。
「あぁ、家の勉強部屋じゃいやか?」
「ううん。お家も好きよ。でもね、ナディアちゃんの声とかうるさいし」
サクラは肩をすくめて笑った。
ここに逃げてきた理由は俺と同じだ。やっぱり落ち着ける環境が最強だよな。
「いつでも来ていいけど、サングリエと一緒にな」
鍵を持っているのは俺とサングリエだけ。サングリエはここのキッチンでワインを使った試作品やらくろねこ亭の夜……バーで出せる料理を研究したりしている。
「ありがとう」
「たのもー!」
あぁ……うるせぇのが来た。
「ソルト殿! さぁこちらへ!」
「なんだよ、ヒメ」
ヒメの後ろではソラが申し訳なさそうな顔をしている。この野郎、この場所のことヒメに話しやがったな。
「完成したのじゃ! 西洋極東交流会館が!」
そうそう、そういえば。
アマテラス奪還から極東との交流がぐっと深まった。俺と……というかタケルがツクヨミを倒すために一役買ったことも大きな理由となった。
そして、ツクヨミによってこのエンドランドでも多くの人間が犠牲になった。エンドランドの国王までもが殺害された。
俺たちは極東ともっと近く連携を取り、ツクヨミのような巨悪が生じた場合にもっと迅速に対応ができるように西洋極東交流会館を建設すことになった。
エンドランドの領地内に建てられる会館の館長を務めるのは極東ヤマト王国の王族……王妃の姪っ子であるヤマト・ヒメである。
ヒメは俺たちのれっきとした仲間である。
「そうか、よかったな。頑張れ」
「なんじゃ、なんじゃその態度は〜!」
ヒメはキンキン声で地団駄を踏んだ。サクラが苦笑いしている。
「会館の完成をお祝いして極東から王族がいらっしゃるんです。ソルトさん、ぜひ立ち会ってはいただけませんか?」
うーん、最高に嫌な予感がする。
俺と同じ気持ちなのかシューがため息をつく。
「ソラ……それって」
「はい、ワカヒメ様がソルトさんを。イザナミ様がシューちゃんを指名しておられます」
でしょうね〜。
そんなことだろうと思いましたけど。
「で? 何を用意しろと」
「ワカヒメ様はソルトさんと二人なら何を食べても美味しいからなんでもいいとおっしゃってます」
「ええのぉ……会館には個室もあるんじゃ。二人でしっぽり……」
今ハリセンがあったらこのバカヒメをぶん殴りたい気分だ。
なんで俺が極東の王族としっぽりやらにゃならんのだ。全く。
「仕方ないにゃ。そのかわり美味しい魚をもらうにゃ」
シューはうんと伸びをしてからソラの腕の中に飛び込んだ。
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