第165話 ミーナ・シュバイン(3)
「で、ミーナさんはどうしたいんだよ?」
「私は……」
ミーナは俯いてしまった。そして、少しの間沈黙が続く。
「私は、今のままを生活を続けたい」
平民の俺にはよくわからない色々なしがらみがあるのだろう。俺には想像もできないが、いつも大きく構えているミーナがこんな顔をするのだ。
「じゃあ、その話をちゃんとご両親に話すんだな。アンタの妹さんがいなくなったのはアンタのせいじゃない。妹さんの尻拭いをする必要はない」
親父はおどけて見せたがミーナはにこりとも笑わなかった。
「私もそう思います。やっぱり、親御さんは自分勝手すぎると思います。今までミーナさんを厄介者扱いしていたくせにいざとなったら言う通りにさせようなんて」
リアが鼻の穴を膨らませて言った。エリーも賛同する。
「問題は、本人がどうしたいか。そしてどうやってミーナの生活を守るかだろ? ミーナ」
俺はミーナを見つめた。ミーナは少しだけ涙をためて唇を噛んでいる。
「私、ちゃんと家族と話します……」
よし、これで大丈夫だな。
俺は戻ってのんびり農場の管理でもするか……。
俺は腰を上げ、服のシワを伸ばすとバッグに手を伸ばした。
「ソルトさん……一緒に説得にきてくれます……か?」
ミーナは涙声で、俺に言った。
(え……まじかよ)
「いや、俺は平民だし、言ってもなんの役にもたたないっすよ」
「お願い」
「何をしろと?」
「秘書ということでそばにいるだけでいいから。ソルトさんがそばにいてくれたら私……頑張れると思うの」
そってどういう原理なんですか……?!
いい歳こいた大幹部様が何言ってんだか。
「おいバカ息子! いってこいや!」
***
シュバイン家は由緒正しい薬師の家系である。貴族ではないが王国から称号をもらっている上流階級の部類である。
上流階級との農作物の売買はサングリエに丸投げしているせいで俺は久しくこの街に来ていないがやっぱり嫌な雰囲気だ。
上流階級ってのは金がありすぎて、暇だ。だからどこどこの家の誰か何をしたとか、どんな嫁をもらったとかそんな噂話ばかりして自分が優越感に浸ることしか考えていないような連中。
広い敷地の屋敷に入っていくと、ミーナはドアを叩いた。
すぐに執事が現れ、俺たちを応接間へと通す。
「おかえりなさいませ、ミーナ様」
執事の男は頭を下げた。そして、俺の方をみて「こちらは」と短く言った。
「俺はミーナ様の秘書をしております。ソルトと申します」
執事は首をひねった。
なぜ、婚約をどうするかの話し合いに秘書が必要なのか。俺もそれはわからない。意味不明だ。
「左様でございますか……では奥で旦那様と奥様がお待ちです」
俺は落胆した。
この家はミーナに興味がないのだ。本当に娘を大事にしているのであれば……俺が秘書でないことにすぐ気がついたはずだ。
秘書のほとんどは案内部の女性職員だし、何よりミーナと一緒に働いている俺を知らない……?
どれだけこいつらは娘に興味がないんだ。
「ミーナ、よく決意しました」
赤毛の中年女性が言った。
鋭く、そして威厳のある声は少しだけソマリの面影がある。
「お母様、私は」
「お相手も快く承諾してくださいました。来月、告示をし正式に婚約、あなたとお相手は我が家の離れにすみなさい。ギルドの仕事は子供を3人産むまでは休むように。いいわね」
「お母様!」
「私、婚約はしません」
「何を言うのですミーナ! あなたはシュバイン家の跡取り娘。ソマリのように才能のないあなたがこの家の当主となれるのですよ」
「私は、シュバイン家を離れます」
「ふんっ……意気地なし才能なしのあなたに何ができるのですか」
「できるわよ……」
「シュバイン家の娘としてのプライドはないのかしら。行き遅れの年増女がまるで反抗期のような目をして。恥を知りなさい」
「私は、ここにいるS級鑑定士であり特別顧問のソルト・アネット氏と婚約をします。同時に私はアネット家に嫁ぎます」
はいぃぃぃ???
俺はミーナに引っ張られてシュバイン家を後にした。
「おい、どういうっむごごごっ」
口の中にハンカチを詰め込まれた俺は声を出すことを許されずギルドまでひきづられた。
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