第158話 新開拓のすすめ(3)
「あら、可愛い」
キューキュー!
「残飯や毒性のある食べ物なんかをこいつらは食って腐葉土にしてくれます。毒物も消化してくれるので楽です」
俺は試しに酸モモを土モグラに食わせる。
エルフたちは悲鳴をあげたが土モグラは元気にモグモグと食べ、キューと鳴いた。
グレースからもらった城の敷地の中にある空き地にたくさんの残飯をばらまいて土モグラを放った。
リアとフィオーネの手の中から飛び出した土モグラたちが一斉に残飯に群がったり砂の中に潜ったり。
「数時間でこの砂は腐葉土に変わるでしょう。昨日ダンジョンから持ち帰った種を俺の弟子・リアと一緒に植えてください」
ナナたちは「わかった」と返事をするとリアの用意した炊き出しの方へと向かって行った。
俺は彼女たちとは別の方向へ歩く。
フィオーネとシューでダンジョンに潜るのだ。
「ソルトさん」
グレースに呼び止められた俺は彼女を見てひっくり返りそうになった。
グレースは小さな少女と手を繋いでいたのだ。身なりからして王族だろう。そしておそらく彼女は……
「あら、本当におてんばなんだから」
「ごめんなさい、お姉さま」
エルフの少女は夜中、俺たちの部屋に何度か忍び込んできた足音の主だ。特徴的なミントの香り。よく覚えている。
「この子をダンジョンに連れて行ってくださる?」
待て待て……まじかよ。
「わっ、私は子供じゃないのよ! これでもお姉様と100しか変わらない立派なエルフなんだからねっ!」
もうちょっと概念がわかりません。
俺はエリーに助けを求めるように視線を送る。
「でも、危険では?」
エリーの助け舟。おそらくエルフの中では子供の類なんだろう。
「ソルトさん。私の願いを聞いてくれないの?」
グレースのしっとりとした視線が俺を貫く。
「えっと、その……」
きっとグレースにはグレースの考えがあるだろう。
ただ、俺の予想が正しければあのダンジョンの奥にいるのはかなり危険なモンスターだ。俺とフィオーネ、そしてシューでなんとか倒せるレベルの。
足手まといがいると……。
「あら、この子は足手まといにはならなくてよ」
「失礼ねっ。私は様々な精霊に愛される精霊使いなのよ! まったくこれだから人間の小僧は嫌いだわっ!」
グレースは愉快だとばかりに笑っている。一方で少女の方はプンプンと言わんばかりに頰を膨らませている。
綺麗なドレスと金色の縦ロールの髪はエンドランドのおとぎ話に出てくるわがままなお姫様みたいだ。
「えっと……ソルトと申します」
「ふんっ! 知ってるわよ! 私はプリテラよ。せいぜい私のお荷物にならないでよねっ!」
「プリテラ様、お力添え感謝いたします」
フィオーネ、エリー、シューが順々にプリテラに挨拶をした。
でも、なぜ彼女は俺たちに協力してくれるんだろう。
「協力してあげるかわりに条件があるわ」
プリテラは跪いている俺の胸を小突いた。
「私が……その……いつでもあいすくりーむを食べられるようにして頂戴」
プリテラは毎晩アイスが食べたくて俺たちのいる部屋の前をウロウロしていたのか……。
「プリテラ様。城の料理長にアイスクリームの作り方を伝達し、我が国より【万年氷】を仕入れ、いつでも美味しいアイスクリームが提供できるようにいたしましょう」
プリテラの瞳が輝く。
「ミルクアイス以外にも果汁を使ったフルーティーなアイスクリームや氷を削り出しシロップをかけた極東風アイスクリーム。ローム伝統の香草や果実をつかったアイスクリームなど料理長と様々なご提案をさせていただきます」
その辺に関してはリアを連れてきてよかった。
あいつの商才に関しては俺よりも上、甘味に関しては天才的だ。
「楽しみだわ。さっさと行くわよっ」
「エリー、行ってくる。2日経っても戻らなかったらお前が俺のかわりにリアとネルたちを助けてくれ」
エリーは頷いた。そして「必ず帰ってきてください」と俺に言って微笑んだ。
「さっ、いっちょやるか!」
***
昨日俺たちが採集をしたダンジョン。小川を遡って水が湧いている場所を俺は丹念に調べる。水質から見るに、この近くに深層へ降りる入り口があるはずだ。
「プリテラ様? 精霊使いとはどのようなものなのですか?」
バカな質問を偉い人にぶつけたのはフィオーネだ。
でも、エンドランドにはない職業……である。そもそも職業なのか?
「エルフはね。目には見えない精霊様の力を借りて魔法を使うことができるの。でもね、それは私のような限られた人だけ。あぁ、精霊様っていうのはその土地に根付く神様みたいなものね。まぁ、人間に理解するのは難しいでしょうけど」
本当に理解するのは難しい。
「で、私は普通の魔法を精霊様の力を借りることでより強力にできるってわけ」
「ヒミコなんかも同じ類の力を持ってるにゃ」
確かに、ヒミコはヒメやソラ、シューから魔力を吸い取ることで自らの魔法を強力にして戦う。
その原理と似ているのだろう。
「おっ、あったぞ」
ぽっかりと空いた入り口は洞窟のように深く暗い。俺はプリテラが汚れないように抱き上げて中へと足を踏み入れる。
俺の知識が正しければこの奥に魔法石がある。そして、それを守るモンスターがいるはずだ。
「そうだ、どんなモンスターなんですか?」
「あぁ……俺の親父の話だが……とにかくでっかい」
「とにかくでっかい?」
「とにかくでっかいトカゲだ」
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