第154話 心の声(1)
「つまり、相棒を人質に取られてるってことか」
ソマリの相棒であるホークス……という鳥形の魔物をルーデル家に人質に取られている。薬師は高いところにある植物を採取するために鳥形の魔物を相棒にすることも多い。
ミーナの話じゃシュバイン家に代々使える大切な魔物なんだとか。
「ダルマス商会がロームにも出入りするようになってルーデル家はネルの情報を手に入れたらしいわ。そこで、ルーデル家に学びに来ていたソマリを使ってネルを奪い返すことにした。同じルーデル家に仕えるスピカを使ってね」
元凶はネルの母親ってことか。
「おいおい、貴族ってどうなってるんだよ」
「こっちの上流階級と変わりなく残酷で……自分たち以外を同等だとまるで思ってもいない。そんな連中だ」
ネルの声だ。
「で、ソマリさんはなんで俺を?」
「あぁ、それは貴方が極東で挙げた功績が貧民街で話題になっていたから、一緒に連れて行けば……こんな風になるんじゃないかって思ったらしいわ。お人好しの巻き込まれ鑑定士だからって」
ふざけた女だ。
「で、俺はまんまと引っかかったわけだ」
「そうね。で、どうにかできそうなの?」
「まさか、できるわけないでしょう。でもスッキリしましたよ。俺の読み通りソマリさんは人質を取られていた。俺がここへ連れてこられた理由もわかった。問題はどうするか。ネルさんもスピカさんもエンドランドで暮らし、ソマリさんの相棒を取り返す」
「スピカさんはソマリさんに唆されたんだから罪はない。それに女王さんもスピカに固執することはないだろうし多分クリア。問題はネルさんとソマリさんの相棒っすよ」
「そうね。ネルほどの人材であれば欲しいと思うでしょう。その点で言えば女王様とルーデル家の利害が一致してる。ネルはスピカさんをルーデル家に戻すのは嫌だと言っているし……」
「ならソマリさんをルーデル家に帰してはどうでしょう? エンドランドとしてもソマリさんよりもネルさんの方が価値が大きい。それに、ソマリさんも相棒と再会できます」
エリーの意見はソマリの意見を完全に無視するものだ。
俺としてはソマリに同情する部分もあまりないしそれでもいいが……。
「それがね、ルーデル家はソマリがネルを取り戻せないなら相棒を殺す。もし、ネルを取り戻せなかったら……どちらも殺すと」
「それ……ひどくないっすか!」
ボブが大声を上げる。確かに酷すぎるだろ……。
「女王様はそれを知っていて……ソルトさんを残した。不介入でありながらおそらく味方をしてくれるかと」
「等価交換……か」
「え? 何か言いましたか?」
「いや、また連絡する」
「じゃあ、頑張ってね」
ボブはジャーキーをしゃぶりながら不満そうに鼻を鳴らした。
「貴族ってのはほんと……俺たち平民のことはなんとも思っちゃいないんすよ。俺も今はこうしてここで兵士をしてますが、親父の時代は貴族の護衛をしてて……あいつら俺たちをゴミみたいに扱うんす」
エルフがどういう状態で階級があるのかは知らんがどこも同じなんだなぁ……。その点、うちの国はギルドや力を持つ奴の声がでかいからいいのかもしれない。どんな境遇でもギルドで成果を上げれば昇進ができる。
俺もそうだし親父なんて今や幹部様だ。
「一番平和なのは、ネルをここへ連れ戻しソマリとその相棒を取り返すことか。誰も死なない」
「それじゃあソルトさんがここにいる意味がないじゃないですか」
エリーの言う通りだ。
「俺はどうすべきか」
「じゃあ、女王様にお願いしましょう。あの貴族は悪い人だからみんな許してくださいって」
フィオーネは単純明快だ。
だがそれが時に光となる。
「ボブ。女王様はいつ水浴び場へ?」
「夜っす。俺が巡回の時声かけるんで安心してください」
「ありがとう」
俺は本を作る作業をしながらも考える。グレースは何を欲している? 彼女の協力を得るには彼女が欲するものを俺が与える必要がある。
だとして、長年仕えて来た貴族を簡単に切り捨てるか?
俺たち人間のためにあのグレースがそこまで……するか??
「おぉい! ボブ!」
「おっ、どうした?」
「ここにいるって聞いてな! そんで人間のにいちゃんは?」
「俺です」
俺は手を挙げる。泥だらけの仮面をしたエルフは俺に手を振るとぺこりとお辞儀した。
えっと……誰だっけ?
「あぁ、こいつは俺の友人で炭鉱をやってるロワーノと言います」
「あなたに命を救われた一人です。えっと、そのお願いがあってきました!」
「えっと、お願い……ですか?」
「はい。炭鉱作業を続けていたら新しい階層があったんですが……魔物のいない作物が豊富な場所です。女王陛下に報告したところソルト殿に鑑定をしてもらえと」
「なら、俺の相棒が必要だ」
「シューさんならここに!」
フィオーネが荷物の奥底から眠っていたシューを引っ張り出した。シューはあっちでソマリに自白させるのに魔力を使ったらしく眠りこけていたらしい。
「にゃにゃ……ソルト久しぶりだにゃ」
「悪いなシュー、手伝ってくれるか?」
「にゃにゃ」
「明日、朝一でダンジョンへ案内してくれるか?」
「はい、それと……」
ロワーノはもじもじとしながら恥ずかしそうに言った。
「俺たち……腹減ってるんで……明日炊き出し頼めますか? でっ……できれば今城で話題になってるアイスが食いたいっす」
ダンジョンでの料理なら俺の本業だ。作物がたくさんあるダンジョンなら……この国をもっと豊かにできるかもしれない。
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