第142話 得意不得意(1)

 俺はまたこの古書店に来ている。ソマリの古書店だ。今日はシューとふたり。フィオーネは寄宿学校での授業があるらしい。

 俺の方を見ながら微笑むソマリを無視して俺は鉱石に関する本をかき集めている。鑑定士部にあった本はもう全部読んだ。

 あとは鑑定士部にはなかった本をここで探すんだ。


「ふふふ、苦手なものは苦手。仕方のないことよ」


「でも……うちのスタッフが誘拐されかけた。俺は流通部の顧問でもあるし一応知識は持っとくべきだろう」


「その向上心、素敵」


 まっすぐに褒められて俺は顔が熱くなった。掴み所のない女だ。


「責任があるんすよ」


「そう」


 バカにしたような返事でソマリは笑うとカウンターの奥へと入っていった。昼下がりのお茶でも取りにいったんだろう。カウンターの奥と2階は彼女の住居スペースらしい。

 きっとマニアックな本が並んでいる埃臭い部屋だろう。


「ソルト、その上に鉱石の本があるにゃ」


「お、ほんとだ」


【ダンジョンの罠鉱石】


 俺はその本を手にとってパラパラと眺める。鉱石を使った即席の罠の作り方や危険な鉱石がずらり。こりゃいいや。


「いいものが見つかったかしら」


 ソマリの腕の中には古い本。


「これもおすすめよ。でも……貴重なものだから高くつくかも」


 ニヤリ。ソマリが口角を上げた。

 この女に俺は……というかギルドがかなりの金を巻き上げられている。まぁ、仕方のないことだ。今までギルドが鑑定士を軽んじていたせいで鑑定士が勉強するための教材が全く揃っていない。

 親父とそして俺の活躍をアロイが認め予算が他の部署と同じになったからいいものの。


「じゃあ、いつも通り請求書」


 俺は請求書をソマリに渡した。


***


「不合格だな」


「まじかよ」


「おおマジだ」


 親父は腕を組んで、やれやれといった様子だ。それもそのはず、俺は簡単な鉱石鑑定をミスったのだ。

 どれも同じ土の香り。しかも見た目もそっくり。


「お前は嗅覚に頼りすぎだ」


「それが俺の長所だろう」


 隣に立っていたリアが頰を膨らませる。


「最近の迷宮捜索人の報告では香りが全く同じ植物が発見されています。毒物が混じったものです。ソルトさん、危険ですよ」


 あぁ……俺が弟子に怒られる日が来るとは。


「わかった、俺が悪かったよ。で、どうやって見分けるんだ」


「そりゃ、経験だが……まずは少し削ってそして擦ってみる。色が出るもの出ないもの、ここで香りが立つものもあれば立たないものもある。こっちはただの石炭でこっちは毒鉱石だ」


 毒鉱石は石炭にそっくりだが削った粉塵を多く吸い込むと昏睡状態になる非常に危険なものだ。少し手のひらに削り粉を落とすと皮膚がヒリヒリとする。それが目印だ。


「ダンジョン内での鉱石鑑定は危険なものだけ避けられれば基本はOKだ。宝石類はこっちで鑑定することになってるしな」


 確かに親父の言う通り、採掘したものは全てギルドを通してから販売される。ダンジョン採掘において鑑定士がすることは「危険物を取り除く」ことだ。


「実践あるのみ! 簡単な炭鉱ダンジョンにでも潜ってこい」


 ばしっ!

 親父は俺の背中を何度か叩いた。

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