第141話 お好みのソース(2)


「かき氷みたいに……好きなソースをかけ放題にするんです」


 ウツタとユキでは人手が足りずにシロップは自分でかけさせる方式を取っているらしい。

 確かに、そうすればおっさんの作業時間が格段に減って作業効率が上がる。


「確かに、小さいお子さんへは塩抜きにしてくれっていう人もおおいんだよ」


「だから、どうでしょう? 調味料コーナーに今案が出たものを置いて……お客さんに選択してもらうって言うのは」


 ウツタはいもいも焼きの味付けなしを手に取ると自分で塩をふりかけバターを乗せた。


「ユキ……そのまんまが好き」


「私は、バター少なめかなぁ」


「俺はマヨネースだけ!」


 子供達は口々にリクエストを出す。俺は何が好きだろうか。やっぱり……


「俺は焼き鳥ソースが好きだな」


 極東でよく使う醤油・砂糖・みりんの三種類を混ぜて作る合わせ調味料。まぁ、うまい。

 

「作業効率が上がればソースをたくさん揃えられますね」


 リアがメモを取り、ゾーイが利用できそうな器とテーブルを探しに2階へとあがっていった。

 

「ウツタ、ありがとうな」


 ウツタは真っ赤になって照れながら頷いた。お役に立てて何よりです。なんて言っているが本当に俺は彼女に頭が上がらない。

 くろねこ亭での頑張りだけでなく、子供達の世話も率先して見てくれているらしい。それに……彼女の雪の精の凡庸性は半端じゃない。

 子供達の護衛にも使えるし、困った時には魔力を補充する食料にもなる。

 そしてウツタは腐ってもダンジョンボスなのでそれを無数に生み出すことができる……。


「じゃあ、いもいも焼き宣伝を頼んだぞ! お前たち!」


***


「いもいも焼きの売れ行きが好調みたいね」


「あはは、そうなんですよ。うちがいもいも焼き屋みたいになってます」


 くろねこ亭の中でランチをするミーナとエリーはなんだか嬉しそうだ。クシナダ考案のチーズトマトいもいも焼き(ディッシュ)をシェアして食べているのだ。とろりとしたラクレットチーズとモッツァレラチーズがなんともいえない幸せな香りで、トマトとバジルのエッセンスが爽やかだ。


「外がいつも行列で」


「今度、ギルドに出張店舗を出して欲しいわ。流通部も手伝うから」


 ミーナなら実現させそうだ。

 ギルド内で販売すればもっと……売れるだろう。さくっと食べれて安いのがいい。俺も、仕事中に食べたくなることがあるもんな……。


「だめーー!!」


 大きな金切り声が響いて、俺とミーナはくろねこ亭の外へと向かう。


 そこでは狼の姿になったナディアとナディアの背中に乗ったエルフの兄弟、そして商人風の男……。


「ナディア! どうした!」


 ナディアはガルルと唸って戦闘態勢になる。ミーナとエリーがエルフの兄弟を避難させ、俺も剣に手をかける。


「このおじさん……ルドとアルをユーカイしようとしたの!」


 俺はエルフの兄弟の方へと目をやる。エルフの兄弟は首を縦に振ってから承認風の男を指差して言った。


「この人……僕たちに一緒にこいって! いい場所につれていってくれるって」


「この人悪い臭いがする! だめーー!」


 ナディアが今にも飛びかかりそうな雰囲気で、俺は彼女を止めくろねこ亭の中に入るように言った。ナディアは聞かない。


「話を聞かせてもらおうか」


「くそっ!」


 男は【けむり玉】をいくつかばらまくと逃亡した。面倒事の予感。俺はエリーの方を眺める。


「エリー、子供のエルフって……」


「ソルトさん、それはギルドで話しましょう。子供達の前です」


 やっぱり。

 今では一般的なエルフだが、人間の子供よりも誘拐の被害に遭いやすいと言われている。エルフが潜在的に持つ魔力や寿命の長さは今でも奴隷として高く売れるからだろう。

 この貧民街にエルフが珍しいのはそういう理由も含まれている。


「ナディア、よくがんばったな」


 俺はまだ狼の姿で尻尾をブンブン下向きに降るナディアの頭を撫でた。もふもふした感触は猫のものとは違って脂っこくて硬いがそれもまた良い。

 少し撫でてやればナディアは耳を倒して頭を平らにし尻尾はみるみるうちに上向きになる。


「おい、にいちゃん。さっきの男……」


 いもいも焼きの行列に並んでいたおじさんが俺に声をかけてきた。ギルドで働く保安部の人らしい。


「あのバッジはダルマス商会の人間だぜ」


「ダルマス?」


「ほら、大金持ちの鑑定士さ。知らないかい?ダルマス商会っていう組織を作ってブイブイ言わせてた。ギルドには所属しない鑑定士が金の力でパーティーを雇ってダンジョンへ潜り、物品を手に入れる。って、聞いた事ないかい?」


 聞いたことあるような。ないような。

 俺は困ってエリーの方を見る。


「ほら、ソルトさんが追放された日……お話した記憶が。鑑定士が戦士たちを雇って大きな組織を作っていると」


 あぁ……思い出したぞ。

 俺はあの時のエリーの深層心理に根付いた鑑定士への差別に心底いらっとした記憶がある。


「あいつら横暴でさ。最近じゃ、ギルドに出される依頼が無茶なものばっかりで」


 保安部のおっさんは自分の番が回ってくると話を中断してしまった。

 そういえば、流通部の仕事でそんな商会の話は取り扱ったことがなかったな。いや、ミーナの担当だったのか?


「エリー、流通部との関わりは?」


「ダルマス商会は流通部が取り扱うほどではなかったと思いますよ。鑑定士部での鑑定を終えた商品を上流階級に売る。主に鉱石や宝石類です」


 あー、それなら納得だ。

 俺は鉱石類が大の苦手だ。俺は嗅覚が鋭い分食べ物や植物なんかに強いが鉱石や宝石類の鑑定はめっぽう苦手。匂いでの判別は不可能だし、どれも同じに見えて覚えるのも大変だし。


「ちょっと調べるか」



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