第140話 お好みのソース(1)

 くろねこ亭は臨時休業。店内に集まった俺たちは真剣な顔で向き合っているのだ。

 いもいも焼きと。


「最近、いもいも焼きの味がマンネリ化していると言われていてな。今日みんなに集まってもらったのは他でもない。いもいも焼きの新しいソースを選ぶの手伝って欲しいんだ」


 子供達が歓声をあげる。


「まずは、バター塩。これはいつものいもいも焼きだな。カリッとバターでしょっぱくてうまい」


 うんうんと全員が頷いた。


「次は私の考案! バター醤油です」


 醤油は極東の調味料だがバターの相性が抜群だ。リアはいもいも焼きを小さく切ったものにバター醤油をかけた試食用を配った。

 子供達は「うーん」と首をひねったが元戦士達からは好評のようだった。


「こりゃ、酒に合いそうだ」


「じゃあ、夜のメニューにいいかもしれないな」


「次!」


「次は私の考案よ」


 クシナダがにっこりと微笑んでチーズとトマトソースを取り出した。クシナダらしい高カロリー。太りそう。


「古都風ピッツァいもいも焼き!」


 とろり、ラクレットチーズと爽やかなトマトソースを少し焦がして食べるいもいも焼きは絶品だ。こちらは子供達に受けが良く、女性陣は「太る」と首をひねった。香草バジルがいい味を出していて俺は好みだ。


「次は私ですっ」


 サクラが取り出したのはシンプル。砂糖と醤油だった。食が進む最強の組み合わせ甘しょっぱい。

 これは極東の御仁たちに好評。原価も安いので俺とおっさんもおすすめだ。


「最後はわたしね」


 ゾーイがドヤ顔で披露したのは……


「明太子マヨネーズよ!」


 明太子ってのは魚の卵をつかった極東の珍味だ。マヨネーズってのはタケルが考案した油と酢と卵でできた異世界風ソース。まぁ、タケルとパーティーを組んでた時に言われて作ったのは俺。

 そもそも、親父が店やってた時焼き鳥丼にかけられてたソースがそのマヨネーズだった。

 その時点で俺は自分の母親が異世界人であることに気がつくべきだったのだ。


「これ、うめぇ」


「ちょっと辛いけど美味しい!」


 俺も一口。魚介の香りとマヨネーズのまろやかさがいもいも焼きを数段うまくしている。おぉ、これこそ酒のつまみにさいこうじゃないか!


「クシナダのチーズはコスト的に難しいわねぇ」


 リアの辛辣な意見。確かに、クシナダの案はトマトソースを使うので別途調理が必要だし、チーズもそこそこ高値なので赤字になってしまう。

 

「その他はいけそうじゃない?」


 クシナダがしょんぼり。


「チーズトマトは食べ歩きじゃなくてがっつりいもいも料理として販売するのはどうだ?」


 俺のイメージでは輪切りにしたいもいもをしっかり焼いてその上にトマトソースとチーズをぶっかける皿料理だ。いもいも焼きのコストでは難しいが、皿料理にする分には問題ないだろう。


「ほんと?」


 クシナダの目が輝く。

 俺は頷く。


「よし、じゃあ新しいいもいも焼きのソースはバター醤油、砂糖醤油、明太マヨネーズに決定!」


 拍手喝采、試食用のいもいも焼きをみんなで食べる。

 その時だった。


「これって……セルフサービスにしてみたらどうでしょう」


 ウツタが声をあげた。


「何をセルフサービスに?」


「ソースです!」


 俺たちは想像がつかずに首をひねった。

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