第133話 ナディアのおつかい(1)
ヒメたちが滞在するようになって数日、俺の農場は活気を取り戻している。ゾーイとハクが牧場を担当、ヒメとソラは例の交流会館建設の打ち合わせなどで出払っていることが多い。
俺はまだ休暇。農場で人手が足りないところを手伝ったり、炊き出しをしたり。リアと一緒にくろねこ亭の商品開発なんかも行なっている。
「極東の料理は人気がありますからね〜」
リアは米を精米しながら行った。これをフィオーネと運んで今日はおにぎり祭り。料理を注文するとおにぎりが人数分ついてくる。お持ち帰りもOK。
「ねぇねぇソルトお兄ちゃん」
俺の服の裾を引っ張ったのは人狼娘のナディア。精神年齢5歳。見た目は20歳。かわいい耳とふわふわの尻尾は可愛らしいがとにかく子供。牧場で駆け回るのが日課である。
「なんだ、ナディア」
「ナディアもお仕事する」
「あぁ……それはなぁ」
どうせ何をさせても二度手間になるんだよなぁ。体の大きな5歳児なんだし、正直駆け回ってくれている方が楽だ。
「ナディアはまだお手伝いしなくていいよ」
「なんで〜!」
ナディアは涙目になって地団駄を踏んだ。くっそ……めんどくさい。
まぁでもそういう時期か……クシナダも小さい時はこんな風に手伝いをさせろってうるさかったっけ。
「ソルトさん、私がナディアちゃんにお仕事をお願いしてもいいですか?」
リアはにっこりと微笑んでナディアに言う。
「牧場のミルクとパンをお客様のところに届けて欲しいの」
「おつかい?」
ナディアは尻尾をぶんぶんと振る。わかりやすい喜びように俺はクスっと笑ってしまう。リアは「まぁ……おつかいかな?」とはぐらかしてバスケットにミルク瓶とパンをいくつか入れてナプキンをかけた。
「これをギルドの医師部に届けて欲しいの」
あぁ……ネル宛か。ギルドまでなら何度かナディアも行ったことがあるし大丈夫だろう。心配だからこっそりついていくけど。
「はーい! いしぶのネルさんっ」
なんとも頼りないバカっぽい笑顔になったナディアはこぼさないように慎重に歩き出した。リアは「ソルトさんついていくんですか?」という目で見てくる。
バカ狼が何かやらかさないか心配だから見にいくんだよ。ったく。
***
ナディアの足取りは軽い。貧民街をするりと抜けるとくろねこ亭に顔を出した。
(さっそく寄り道かよ)
「おっ、ナディアちゃん。どうしたんだい? まかないかい?」
おっさんがいもいも焼きを焼きながら言ったがナディアはブンブンと首を横に降った。
(偉いぞ)
「おつかいなの〜!」
「おぉ、偉いなぁ。ネルさん宛てか。じゃあこいつはおまけだ」
おっさんはいもいも焼きをいくつかバスケットに入れると親指を立てた。ナディアはわかっていたのかいないのかにっこり。
足取り軽く、くろねこ亭を出たナディアはギルドへとまっすぐ向かう。バカだと思っていたがナディア意外と使えるんじゃないか??
「いしぶにお届けです!」
シャーリャは俺に気が付いているのに気が付いていないふりをしてくれる。
「医師部は階段を上がった3階です。わからなかったら人に聞いてね」
ナディアは大きく頷くとギルド内部へと入って行った。シャーリャは俺に手招きをすると、にっこりと微笑んで
「お久しぶりです。ほんと心配性ですねぇ」
と言った。
「女の子はあぁ見えてちゃっかりしてるんです。さっ、見つからないうちに帰った帰った」
シャーリャに追い出された俺はギルドの正面でシューと合流。シューはぴょいと俺の肩に乗っかって大欠伸をした。
ソルトは心配性だと言われるが……ナディアが揉め事を起こしたら解決するのは責任者である俺だし。
ヴァネッサから押し付けられたとはいえ、一緒に生活しているのは俺なんだし責任は俺にあるわけで……。
あぁ、ナディアが仕事を手伝ってくれるなら人狼についての書籍でも買ってから帰るか。
「シュー、本屋に寄るけどいいか?」
「そんなことよりナディアが心配にゃ」
「帰るまでがおつかい……か」
「にゃにゃ」
俺はギルドの物陰でナディアが出てくるのを待つことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます