第132話 プリンセスの帰還(2)
「まずは温泉っ! それからうまいミルクじゃ!」
一気に賑やかになりやがったな。ほくほく顔のソラとなんだが嬉しそうなハク。ヒメはなぜかドヤ顔で俺は少しだけ嫌な予感がした。
そしてその予感はすぐに的中することになったのだ。
「西洋極東交流会館?!」
「そのように名付けたのじゃ。こたびのお主たちの活躍、そして友好を深めるために西洋ギルドに隣接した施設を極東が資金を出して建設し、そこでお互いの冒険者が交流できるようにする……将来的には西洋ギルドに登録しているものはシノビに救援を出すことができたり、シノビが西洋ギルドの依頼に挑戦できたり……両国のための施設となるはずじゃ」
ヒメはソラから渡されたカンペを見ながら言った。
「ヒメ様はそこの館長に任命されたのです。王位継承はアマテラス様1位、ワカヒメ様2位に決定しましたのでヒメ様は事実上落第。ですが、西洋との文化交流が評価されこの任命を受けたのです」
ヒメとソラは天狐の血を継ぐ。だからヒミコのように長生きで、彼女たちが館長になることでメリットが多いんだろう。単純にこの農場に滞在したいからとかそんな理由じゃないだろう。
「ソルト殿は現在は引退を?」
「ま、始祖のダンジョンのこともあるしゆっくり勉強期間をな」
霧とともに消え、霧とともに現れる【始祖のダンジョン】。
普通のダンジョンはダンジョンボスが倒されると数日〜数週間くらいで新しいボスが生成される。まぁそれがどういう原理でなっているのかはダンジョンの神秘。俺たちが知るところではないのだ。
となると、始祖のダンジョンのボス【迷宮王】が生成されるのはおそらく三十年周期。ツクヨミの前は俺の母親が殺した【迷宮王】だろう。
でも、普通のダンジョンとは違って迷宮王はダンジョンの底から生まれるのではない。
《迷宮王の素質を持つものを始祖のダンジョンが取り入れる》のではないか。今回の場合、始祖のダンジョンは極東に現れた。ツクヨミが始祖のダンジョンに選ばれたのではないか。
俺はそんな風に考えている。
——だとすれば、次は三十年後か。
まだまだ謎の多い始祖のダンジョンの魅力に俺は惹かれている。この世界に多数存在するダンジョンの神秘。
極東と交流を深めたことで少しずつ明らかになるかもしれない。
「ワカヒメ殿もここへきたいと申しておったぞ。愛されておるなぁ」
「いやいや、王位継承権第2位を迎えるほどじゃないだろ」
「イザナミ様が会館にくる時はここへよるといっておりましたね」
前言撤回。極東の人たちは面倒事を巻き起こす予感が起きすぎる。それに、ワカちゃんには俺以外のやつを好きになってほしいものだし。
「ヒメさんっ!」
ユキが眠そうな目をこすりながら地下室から出てきた。会いたかったヒメたちの姿を見てとても嬉しそうに飛び上がる。
「お主からもらったお守りがヒメたちを守ってくれたのじゃ」
ユキは控えめだが嬉しそうで、髪型も同じだしなんだか姉妹のようだ。
「今日はここへとまる?」
「ずっとじゃ」
ずっとなの?!
俺はちょっとびっくりしつつ、嬉しい気持ち半分面倒な気持ち半分。
「ほれ、明日も早いじゃろ。おやすみユキ」
「おやすみヒメさん」
ユキはウツタに連れられて地下室へと戻っていった。ヒメはなんだが満足げで、ソラとハクも嬉しそうだ。
俺のスローライフ生活はわずか数週間でまた賑やかになり、トラブルが起きないように祈るばかりである。
「ソルトさん、お願いが……」
ハクが小さな風呂敷を俺によこした。
「あの……その」
風呂敷を広げてみると小さなたる。その中にはたっぷりの味噌。ハクはこれを使ったスープ。味噌汁が大好きだったよな。
「味噌汁か?」
「はいっ、お野菜たっぷりの。夜の移動でお腹が減ってしまい……その」
「わかった、準備するよ」
「ヒメはおもちも追加じゃ!」
「わっ、私はあぶらあげがいいです」
口々に要望を出す3人。サングリエが苦笑いして「温泉の準備ができたよ」と言った。
「ギルドから帰ってくるやつらの夜食にもちょうどいい。作るか」
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