第128話 王者の行進(2)

 混沌の再来。

 俺たちが予想していたはるかに大きなツクヨミの野望におれは臓腑がひんやりとするのがわかった。


「先ほど極東から連絡が入ってな。極東で【始祖のダンジョン】が発見されたそうだ。ヒミコさんと言ったかな?」


 ってことはアマテラスがそこに囚われていたってことか。


「安否は?」


「いや、見つけたってだけでまだ踏み込んでないと思う。詳しくは聞いてないが……。でだ、おそらくツクヨミが次の迷宮王ダンジョンマスターになると思われる」


 親父の話じゃ、女王ラクシャは異世界から来た戦士であるタケルに全てを話し、迷宮王ダンジョンマスターを倒すという使命を科したそうだ。

 無論、タケルのことだからサクッと受けただろうが……。


「でだ、タケルが明日、始祖のダンジョンに踏み込むことになった。そのパーティーにお前を参加させようと思う」


 親父はぐっと目に力を込めて俺を見つめた。


「おい、親父、俺は引退……」


「ソルト! テメェの母ちゃんは俺がどんなに止めようと知りもしないこの世界のために突っ込んで行った。俺はどうしてたと思う?」


 親父はぐっと血が出るほど唇をかんだ。


「俺は……お前を守るって大義名分を抱えたふりして……強大な存在に背を向けて、テメェの女守れなかったんだ。弱虫の鑑定士、いくじなしの鑑定士。オメェをそんな男に育てた覚えはねぇ!」


 親父の気持ちが痛いくらいに伝わって来た。


「親父……始祖のダンジョンの資料をできるだけ頼む。それから……その他のパーティーは俺に決めさせてくれ」


***


 タケル、サングリエ、シュー、俺とネルにミーナ。

 ついていくと泣いて聞かなかったクシナダ、そしてウツタ。


「ソルト……そのこの前は悪かった」


 タケルは俺に和解の握手を求めた。俺は、それをそっと受け入れる。


「わかってる、だからお前は刺し違えてもツクヨミを殺せ。いいな」


「あぁ……まぁこの世界で俺が死ぬことはないんだけどな」


「なんだよそれ」


 こいつ、バカなのは変わってないのな……。


「女神さま曰く……運命を果たしたら俺は元の世界に帰れるらしい」


 わけの変わらないことを言いやがって


「とにかく、ツクヨミの居場所はわかったにゃ。始祖のダンジョンの最速攻略を考えるにゃ」


 シューが俺たちに一喝した。


「これもスローライフのため……ツクヨミを倒したらもうソルトは仕事禁止にゃっ! わかったかにゃ!」


 シューの意見に頷いた俺はイザナギに礼をしてからとあるところへ向かった。


***


「ツクヨミ坊。アマテラス嬢ちゃんを解放せいっ!」


 ヒミコの声が始祖のダンジョン最深部に響いた。ヒメとソラは満身創痍、始祖のダンジョンで多くのシノビたちが犠牲となった。

 そして、最深部の静かな部屋には【アマノイワト】という術で完全防御状態になったアマテラスと彼女に話しかけるツクヨミ。そして影武者であるホシの遺体があった。

 ツクヨミの周りにはアマテラスを説得するために和歌を読んだのか短冊形の和紙が散らばっている。


「ヒミコさま、あるべき姿に戻るだけなのです」


「三十年前に遠き国で起きた厄災を……お前は繰り返すのか」


「あれは厄災なんかじゃない。魔物による聖戦だ」


「小童魔術師のお前がこのヒミコに勝てるとでも?」


「ふっ……お前たちはなんもわかっちゃない。俺がどうしてアマテラスをここに呼び、殺さずにいるのか。頑固なアマテラスはまだ俺たちに賛成してくれない」


「でも……賛成したものもいるんだよ」


——ぐはっ!


 ヒミコが何者かに攻撃され吹っ飛んだ。岩に体を打ち付け、そしてヒミコの視線に写ったのは


「スサノオ!」


 極東最強の戦士と言われ、王位継承権第2位を持つスサノオだった。アマテラスの弟である彼はツクヨミとの戦いで死んだとされていたが……。


「スサノオ兄様……なぜ!」


 ヒメの声にがふりかえった。スサノオの額には2つの小さなツノ。


「俺はツクヨミに賛成だ。それ以外に理由がいるか。大和姫よ」


 ヒメは名前を呼ばれて身震いした。


「シノビたるもの、使命のために命を尽くすのは本望です!」


 ソラとハクがヒメの前で構える。


「スサノオ。やれ」


「すぐに楽にしてやる」


 スサノオが地面を蹴った。一瞬にして、彼は海上の風のように舞う。ハクもソラもすっ飛ばされ、ヒメがぎゅっと目をつぶったその時だった。


——サンダースプラッシュー!!!


 洞窟の最深部に閃光が走った。

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