第127話 王者の行進(1)
ヒメたちが極東へ戻ってから数日間、俺は馬車馬のように働いていた。3人のいない穴を埋めるのはなかなか大変で。特にソラに任せていた野菜の手入れがきつい。
こっちが本業なわけだし、がんばらねぇと。
「ナディアはソルトのお手伝いする〜!」
泥だらけの人狼娘は二度手間を作る天才だ。馬鹿みたいに畑をほりかえしてみたり、土モグラを追っかけてみたり……図体はでかいくせに頭は幼児なのでかなりやっかいだ。
ヴァネッサの研修室に送り込んでやろうか。
「今日は嫁の誕生日なんでここいらへんで失礼しやす」
元戦士の男は俺に頭を下げた。
「今日もありがとうございました。そうだ、よければワインでも選んで行ってください」
「ありがとうございます。嫁も喜びます。そう言えばソルトの旦那。聞きましたか?」
「ん?」
「最上級ダンジョンで確認されている《王者》たちの動きが強くなっているって」
王者……か。
ギルドには王者と認定されている魔物が何匹かいる。空の王者は確かドラゴンだったはず。山の王者サラマンダー、海の王者海竜、大地の王者ベヒーモス。
それぞれが最上級と呼ばれるダンジョンの最深部に生息しているとされ、数々の冒険者を葬ってきた。
ドラゴンが住まうダンジョンには洗脳薬として使用されている鬼姫薔薇が生息しているのは有名な話だ。
「ヒメさんたちが戻ってからですけど……俺心配で。前に王者たちが動いた時……そう。三十年近くまえのことだ。そん時は……ひどい有様だったと聞いたもんで」
「奴らは強い。心配は無用さ、さっ……嫁さんのために帰った帰った」
そんな風に言いいながら俺は不安になった。
——三十年近く前、ちょうど俺が赤ん坊だった頃、世界は危機に見舞われた。だが、何が世界を襲ったのかその記録は抹消され知っているはずの者たちも口にしない。
「にゃ……とんでもないことを言い出すやつだにゃ」
「シュー、お前は知ってるのか」
「知ってるにゃ」
「教えてくれ」
「すぐにわかることにゃ。でも……王者たちが動き出すのはなぜか。それは奴から逃げようと最深部から入り口に向かって行進をするにゃ」
ドンッ!
すごくいいタイミングで俺の背中を叩いた奴がいる。
俺はぶっ飛ばしてやろうと振り返り、そして驚いた。
「親父?」
「よぉ馬鹿息子。お前に話がある。ちょっとこい」
***
鑑定士部の執務室で俺は昼飯を食べながら、親父と向き合っている。
「王者のことは聞いたか」
「ついさっきな」
「で、お前に話がある」
「なんだよ」
「三十年前のこと。それから、お前の母ちゃんのことだ」
親父は俺に母ちゃんのことをほとんど話してこなかった。ついこの前、戦士であったことを教えてもらったくらいだ。
どんな人間であったのか、なぜ親父と一緒になったのか。
聞きたいことはたくさんある。
「まずはこれを見てくれ」
親父がテーブルに投げて置いたのはキラキラと輝く石だ。鱗……か?
「鱗か?」
「あぁ、さすがは鑑定士だな」
「三十年前、王者たちの行進が確認されたあと……
兆候?
一つは「王者の行進」、もう一つは?
「兆候?」
「一つは先ほども言った王者の行進、もう一つは……異世界からの使者だ」
「タケルのこと……か?」
「あぁ、王者の行進で俺は確信したよ。
異世界から冒険者が現れ……そしてダンジョンの王者たちが行進をする。俺の知らない恐ろしい存在。
「親父、文献とかそういうのないか? 嫌な予感がする」
「まぁ、待て。答えは出てる。お前の読み通りだ」
——ツクヨミ
「かつて……
始祖のダンジョンってのは知ってる。本で読んだことがある。
「その始祖のダンジョンで力を得た男は自らを
魔物たちが街に現れ、街は火の海になった。
いたるところにポートが建設され、そこから魔物が湧き出した。
「どうやって……そんな中……」
「お前の母ちゃんが
母ちゃんが……?
まぁ、親父と同じ迷宮捜索人のパーティーに居たんだから強いのは知っている。でも……死んだんだよな? たしか、ダンジョンで……魔物にやられたって
「異世界から来た使者が時空の裂け目に……ひきずり込んだ。そうして決着がついたんだ」
「おい、それって」
「だから、お前の母ちゃんだ」
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