第119話 混沌の再来(2)
ゾーイから「作戦成功」の合図が届いて俺たちは普段通りの生活を送っているふりをした。
ミーナの協力でへんげの術を解除する粉も増産することができたし。
「なぁ、混沌ってのはどんなもんなんだよ」
「極東では、ごくごく最近ギルドなんてものができたのは知っているであろう?」
ヒメの言葉にソラがフォローを入れる。
「極東は西洋との交流が始まってからダンジョンポートを作成し、ギルドを編成、今のダンジョンと我々の生活圏が確立されました。この国に比べると非常に小規模なのはご存知ですよね」
極東は未知の域なんて言ってたのは俺が子供の頃だ。
「あぁ、俺が子供の頃はギルドのない大きな国があるって話題になってたような」
「最近まで極東ではダンションと共生していたんです」
ソラ曰く、ダンションの入り口から外に出てきたモンスターだけを狩猟していた。採集目的で入ることはあったがモンスターも自然の一部として命を刈り取ることはほとんどなかったそうだ。
そのため、ダンジョンの入り口を塞いがなくても人間とモンスターはお互いの領地を守って生活をできていたのだ。
「それは混沌っていうのか?」
「私が話したのはあくまでも文献の話。ギルドを設立してダンジョンの入り口を塞いだことで極東での《神隠し》やモンスターによる被害は激減したと言います」
神隠しというのは失踪事件のことだ。
極東では子供が突然姿を消すことを「神隠し」と呼ぶらしい。
ソラの話ではこの神隠しはモンスターの仕業でダンジョンの中に引き摺り込まれたのが原因だという。
「ツクヨミ兄様の目指す世界はダンジョンと我々の共生によって互いに食い合う混沌の世界なのではないか……と私たちは思っています」
「その根拠は?」
ゾーイの鋭い指摘にソラは咳払いをした。
「幼い頃、私たちはツクヨミ兄様の和歌の会に呼んでいただきました。そこで兄様は遠き昔に思いを馳せ、魔物と我々が営む共生の美しさを歌っておいででした」
「未来へ進もうとするイザナギ様と古き良きを愛するツクヨミ兄様の衝突は自然だったのかもしれません」
ソラは小さく頷くと
「私も、どちらが正しいのかわかりません。ダンジョンの入り口を塞ぎ、安全圏から強い人間が魔物たちを狩りに行く。魔物たちは2度と外の世界を見ることはできない。それは我々のエゴではないか」
それがツクヨミ兄様の主張です。と言ってソラはヒメの後ろに下がった。
「そして、この国でツクヨミ兄様が動いておるのはヒミコ様の監視を逃れるためだけではないのじゃ」
フィオーネは首を傾げているが多分こいつは何にも頭に入っていない。
まぁ、計画に参加させるわけだしなんとなくわかってくれていてればいいや。
「西洋諸国最大のこの国で混沌を起こすことで……世界中にその波を起こそうというのがおそらくツクヨミ兄様のねらい」
「確かに、世界最古のギルド設立はこの国だ。並びにうちの国のギルドは世界最大の規模を誇り、冒険者の数もだ。そこで革命が起これば……いや王様に成り代わっているんだから革命じゃないけど。方針転換をすれば世界中が変わるかもしれない」
「まだ準備の段階じゃ。ヒメの予想じゃ、資金源になっておる上流階級たちが次のターゲットになるはずじゃぞ。王権を握った今、もう資金は必要ないのじゃ」
絶対安全な場所にいることを望み、差別が大好きな上流階級など金のために使っていたにすぎない……か。
「それはそうと、どうしてうちの国で冒険者をしていた鑑定士と薬師がツクヨミと手を組んでいるのかしら」
リアの疑問に俺は答えることはできなかった。
彼らはもともと世界中を旅してダンジョンポートを立てるのが仕事だった。彼らが何か、魔物を愛するようになった理由でもあるのだろうか。
「それなら……なんとなく予想がつくわ」
サングリエは険しい顔で言った。
「私たちが所属していた迷宮捜索人のチーム長……戦士だったの。彼は戦うのが大好きで魔物とあれば誰彼構わず切るような男だったわ。きっと私が入り口で待機していた……そう。彼ら以外が全滅したあの日。何か魔物と彼らの間にあったんだわ」
俺はその戦士を知らない。
だが、サングリエを引退までさせた迷宮捜索人での経験を考えればなんとなく想像がついた。
「まぁ、まだ確定しないほうがいいわ。あくまでも私たちの仮説なんだから。ただ……魔物愛護団体の連中も同じような話をしていたのは確かよ。ギルドを解体してポートを解放し本来のあるべき姿に戻すことが世界のためになるって」
シューがリアの膝の上に飛び乗ると丸くなった。
「さっさと懲らしめて今まで通りに戻すにゃ。ダンジョンに閉じ込められてストレスの溜まった魔物たちがこっちに侵攻してきたら冒険者はまだしも一般人は全滅するにゃ。シューはそんなのいやにゃ」
シューの言う通りだ。
「引き続き、情報集めと作戦の準備を頼むぞ」
おー!
元気だけいいフィオーネに励まされて俺たちはそれぞれの職場へと向かう。
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