第118話 混沌の再来(1)
「で? なんでそんな成金的な格好なんだよ?」
ゾーイはギラギラのアクセサリーを見せつけるように掲げてからソファーへと腰を下ろした。
「そんなことよりお家建て直したのね? 温泉まであるし。ここもいい感じで回ってるんじゃない」
まぁ、それには紆余曲折。色々な問題を乗り越えてきたんだがな……。
「私? 私はねぇ、ある分野に絞った営業をしていたのよ」
「ある分野」
ゾーイはリアの肩に手を置いて、それからにこりと微笑んだ。
「美容整形」
この女は本当に逞しい。というか商売がうまい。
「傷ついた冒険者の傷跡や怪我を《綺麗に》修正するのが私の仕事なの。最初はね? 獣医師になろうと思って勉強していたんだけどまずは美容整形でお金を稼いでからここへ戻ってきて獣医師の勉強はゆっくりでもいいかなって」
ゾーイはナディアをヨシヨシしながら言った。
人の懐へ入る技術はピカイチだな。
今回はそのためにこいつを呼んだんだけど。
「まったく、私を使うんだからしっかり成功させなさいよ」
「わかってるって」
「でも……アマテラス様のことは極東でも一大事件として扱われているわ。ツクヨミのこともね」
ゾーイはリアのアップルパイに口をつけて柔らかい笑みを浮かべる。
「久々の故郷はやっぱりいいわね」
「お前には少し早く動いてもらうことになる。すまんな」
「いいのよ。それに、私も魔物愛護団体の言っていることもわからなくはないって考えだしね。屠殺場での経験はやっぱり忘れられない。魔物を消費するだけの冒険者に……私はやっぱり賛同はしにくいのも事実だし」
だからゾーイにお願いするのだ。
彼女はうちの連中の中でも一番魔物や動物を大切にしてきた1人で今もその気持ちは変わらないと思っていた。
「俺は、あの魔物愛護団体が俺たちが追っている二人組やツクヨミの支援団体もしくは本城だと考えている」
あの魔物愛護団体はあいつらの隠れ蓑になっているだけではない。
あの二人組が今までやってきたことはすべて……
——魔物を保護するためだとしたら
「最初は、立場の弱い鑑定士と薬師が戦士や医師を苦しめるために行っているものだと俺は思っていた」
当時、俺は戦士に強い憎しみを抱いていた。だから、鑑定士が犯人で戦士が被害者となればそういう理由だと思っていたのだ。
事実、トラブルが起きて俺が解決するたび鑑定士の株は上がった。そのせいで俺は勘違いしていたのかもしれない。
「だが、奴らの目的が魔物を保護することだとしたら?」
鑑定士と薬師の力をフルに駆使して戦士や他の冒険者を苦しめることでダンジョンへ向かうものは減る。
俺が奴らを邪魔していたのに狙われなかったのは《俺が鑑定士だったから》だろう。
鑑定士の株が上がれば必然的に鑑定士を目指すものが多くなる。そうすれば戦闘に向かない鑑定士はダンジョンでの魔物討伐ではなく採集や生産中心に世の中が回っていくことになる。
それは奴らの目指す世界に近かったのかもしれない。
「でも、うちの姉の件はまったく関係ないと思うわ」
ゾーイは険しい顔で言った。
思い出させたくないことを思い出させてしまったかもしれない。
「あぁ、あくまでも予測だが」
「リッケルマン家という上流階級の手助けをすることで奴らは魔物愛護団体を設立するための資金源を得たんじゃないか」
あの医師部の闘争にはゾーイの家であるリッケルマン家と別の家系の争いがあった。無論、俺たちの活躍によってリッケルマン家は滅びたも同然だが、冒険者以外の上流階級に力を示すには十分だったはずだ。
なによりも、
「セレブって綺麗事がすきだもの。魔物なんて見たこともないくせに支持するのが目に見えてるわ」
ゾーイは「ふふふ」と笑ったが、眉間にシワがよったままだ。
「謎なのはツクヨミだ。なぜ異国に来てまでこんなことをするのか……」
「簡単じゃよ。ヒミコさまがおらんこの国ではツクヨミが動きやすいからじゃ。おそらく、放っておけば強大なこの国を使って極東を滅ぼすつもりじゃろう。そのために……ソラ。覚えてはおらぬか」
ヒメがいつにもまして真面目な顔でソラに言った。
「ツクヨミ兄様の夢物語を幼き我らに聞かせてくれたあの日のことを」
ソラは少し考え込んでから目を見開いて小さく頷いた。
「混沌の再来……」
ソラはわなわなと震えた。
俺たちはその意味がわからず顔を見合わせた。
「ツクヨミ兄様が目指すのは……ダンジョンと地上の境のないはるか古代の混沌の時代の再来じゃ」
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