第117話 少女戦士エスター(2)


「さて、まずは1週間後に開かれる武闘大会にて作戦を決行することとなった」


 エスターは武闘会状の見取り図を俺たちの前に広げた。

 国王が座る席や観覧席、特別招待席にはギルドの幹部たちも招待されることとなっている。

 

「私の役目はあのフウタと戦いを繰り広げて会場の視線を集めること。だったな」


 それだけじゃないですよ。と笑いながら俺はエスターに小瓶に詰めた洗脳解除薬を持たせた。


「これは洗脳を解除するものです。もしも洗脳をされていた人がこれに触れると一瞬だけ意識を失いますがすぐに正気に戻ります。エスターさんが信用している人に使用してください」


 ミーナが改良した洗脳解除薬は以前ワカヒメたちに使用したものよりも優秀で肌に塗るだけで洗脳が解除できる。しかも、以前のように吐いたりしない。

 ほんと、薬師ってすごい。


「ほぉ、私にはいつ使った?」


 エスターに触れることなどほとんどできない。

 だから……


「執務室にいらした時に紅茶の中に混ぜました。うちの秘書が」


 してやられたとエスターは眉をひそめた。

 すると、ヒメが


「シノビは出されたものは食べない飲まないと教育されるのじゃ。戦士部でもその心得を見習ってはどうじゃ? んぅ?」


 煽るな煽るな。

 エスタはーは「検討しよう」と言ったがとても悔しそうでなんだがいたたまれない気持ちになった。

 

「その他の計画については教えてもらえないんだな」


「すみません」


 エスターはふっと笑った。


「まだ戦士に対する気持ちは変わらないか」


「ええ。変わりません」


「力のみを正義と考えてしまう愚かな仲間たちをどうか、許してやってくれ。罠師の件でもよくわかっただろう。我々冒険者はそれぞれが支え合わなければ生きていけないのだ」


 エスターの気持ちは痛いほどわかる。

 あのバカどもに言い聞かせることなんてできない。だから彼女は武力で成り上がりそして上に立っているのだ。


「俺も……いやなんでもないです」


 窓の外でははしゃぐナディアとフウタたち。大切な仲間たちだ。俺は仲間ができてからなんかの職業を恨むことは少なくなった。

 今でも冒険者を続けていたら……いまだに戦士を恨み続けていたのかもしれない。


「いつか、私もこんな風に心安らぐ生活がしてみたいものだな」


 エスターを送り出してから、俺は牧場へと向かった。

 ミルクを絞ったり、チーズの下準備をしたり久々に牧場ライフを満喫する。準備期間は1週間。

 そして……俺がここでハクの手伝いをしているのには理由がある。


「そうだ、前任さんがつくころですね」


「そうだな」


 動物たちの世話を終えて、俺は牧場の水場掃除を行う。

 その時だった。


「久しぶり〜!」


 やけに明るい声、派手な服にギラギラしたアクセサリー。

 久々の登場ゾーイである。


 うちのギルドを永久追放になっている彼女はネル・アマツカゼの計らいで極東の医師部へ修行をしにいっていた。

 今回の件で一旦戻ってきてもらったのである。


「ゾーイ様のおかえりよっ!」


 動物たちがわなわなと騒ぎ出す。やっぱり育ての親であるゾーイのことが大好きなのだろう。

 

「ゾーイさん!」


「おっ、帰ってきたのね! ゾーイ!」


「フィオーネ! リア!」


 ゾーイはふたりにハグをしてそれからリアの顔の傷跡や目をながめ「今すぐにでも治してあげたいけど……」と言ったが「ソルトの計画が終わったらね」と口角をあげる。


「私が帰ってきたからには、絶対に負けるんじゃないわよ」


 バシッと背中を叩かれて、俺は覚悟を決める。


「ゾーイ。お前はこの計画の中心だ。作戦を共有する」


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