第109話 ミーナの婚活(1)
「くろねこ亭でお見合いをする?!」
俺は思わず執務室で大声を出した。
ミーナも呆れ顔でネルを睨んでいる。なんでも、ミーナに一目惚れをした医師がいるらしい。
どうしてもミーナと食事をしたいからと頼み込んで来たらしい。
「で、なんでくろねこ亭なんすか。いいレストランもっとあるでしょ」
ミーナは細くした目で俺を睨んでくる。
「あぁ、お見合いがうまくいかなきゃいいって算段っすね」
ミーナは「そうです」と短く言った。くろねこ亭でガキどもが邪魔でもしてくれて、なんとなく解散になればいい。
まぁ、わからなくもない。
俺も戦士の女とお見合いをしてくれとエスターに頼まれたらあの手この手でお見合いを失敗させようとするだろうし。
「で、協力したら見返りはあるんですか」
ネルが嫌な顔をする。
「お休みをあげようかしら。ここのところ出ずっぱりでしょう?」
おっ、それは頑張っちゃおうかな。
「乗ったぁ」
「お相手はこの人。医師部のエース。今はギルドのERで働いているから安心だ」
ネルが持って来た書類には優男の写し絵が書かれている。
もしかしたら何度か廊下ですれ違ったかもしれない。いい男ではあるが少しもやしっぽい。
「ミーナは男性陣に人気が高いからな。ほら、豊満だから」
ネルはニヤリと笑い、ミーナは恥ずかしそうに胸を隠した。
年増ではあるがかなり綺麗だし、それにスタイルだっていい。そういえば花街のベニもおんなじようなことを言っていたような……。
甘えたい系の男子には人気がたかそうだし、それに気立てがいい。
ただ、片付けが苦手ってのが玉に瑕だな。
「でも、そろそろ身を固めるのも悪くはないんじゃないっすかね」
俺の言葉にミーナはしゅんと肩を落とした。
「そうかもしれないわねぇ」
ミーナが奥さんになったら楽しそうだし、癒されそうではある。
怒ったら怖いが……。
まぁ、ネルよりましだろ。
「ソルトさん、私の顔に何か?」
「いえ、なんでもないですよネルさん」
俺は苦笑いでごまかして、それから書類に視線を戻した。
「そうだ、ソルトさんにも女の子を紹介しましょうか?」
「結構です!」
***
くろねこ亭は貸切。
テーブル席には緊張した様子の男が1人。
俺は頑固者のシェフになりきって、リアはポンコツのウェイトレス。ガキどもは野次馬だ。
男は着飾った服でだらだらと汗をかき、そしてミーナの登場を待っている。
——ガラガラっ
来店を知らせるベルの音。
「えっ!」
俺は思わず声を出してしまった。
現れたミーナは仕事着の汚いローブでボサボサの三つ編み、曇ったメガネ。
恐ろしく見合いとは不釣り合いな服装でやって来たのだ。
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