第104話 ウツタと女の子(1)
花街での鑑定教室に加えて、親父から依頼された鑑定で俺はほとんど寝る暇ものなく働いていた。
スローライフとは程遠い生活をしている自分に呆れて物が言えない。
そろそろ断ることも覚えていかないと……年も年だし身が持たなくなるぞ、俺。
「ウツタ〜、まかないできたぞ」
今日はリアが派出所で授業を行っているので俺がくろねこ亭でシェフをすることになっている。
お昼の混雑する時間帯を終えて俺は店員のまかないを作りおえたところだ。子供達はどんどんでかくなるし、天職を判定してもらって寄宿学校に行く奴や冒険者に取り入って弟子入りするしたたかなやつまでいる。
「あ……あの」
もじもじとしているウツタはなんだか恥ずかしそうな顔で俺をチラチラと見ている。
どうした?
まかないの雑炊が気に入らなかったか……?
「えっと……その」
「ん? どうした? 肉がよかったか?」
「こっ……こっ」
こ?
あぁ、コーンポタージュがよかったのか。ウツタ好きだもんだ。
「子供ができました!」
「はぁ???」
ウツタの後ろからひょっこりと少女が顔を出した。
真っ白な肌に青っぽい髪、顔はどことなくウツタに似ている。5歳くらいだろうか?
いやってか昨日はこんな子いなかったぞ?
「えっと、ウツタ」
「だ、だめですよね……捨てて来ます」
「捨てなくていいから!」
ウツタはほっとしたような顔をしていたが、少女の方は……。
***
「私、あいすくりーむを作ったりジュースを冷やしたりするのに【雪の精】がいたら便利だなと思ってたまごを産んでみたんです」
ツッコミどころ満載だが、まあ聞こう。
「それで万年氷の近くでたまごを冷やしていて、今日には雪の精が何匹か生まれる予定でした」
こいつは何個産んだんだ。
「うち……4匹は雪の精でしたが。この子が」
怯える少女に俺は暖かい飲み物を渡す。甘いおしるこだが口に合うだろうか。というか……雪魔女ってたまごで孵るんだな。
「ウツタ、俺やリアの作った料理以外で何か食ったか?」
「いいえ、多分……産み間違えたんですぅ」
涙を流すウツタ。
別に怒ってないです。困ってるだけです。
「まあ、捨てるわけにもいかないし……ウツタが育てるってんなら一緒にいてもいいけど……さ」
バァン!
と大きな音がしてドアが開いたと思ったら厄介ごとになりそうなやつの声がした。
「知らない匂いがするー! がうがう〜!」
ナディアである。
いい歳な容姿だが中身は子供。しかもアホの子である。
「わっ、新しい子だ! ナディアっていうんだ! あそぼ!」
ぶんぶんと嬉しそうにしっぽを振って、耳を平らにしているナディアに少女は小さく微笑んだ。
魔物同士はうまく行くのか?
俺の時は怯えきってたのでちょっとくやしい。
「名前はあるのか?」
「あります、ほら。自己紹介は?」
「ゆ……ユキです」
おぉ……ベタな名前!
でも、とても可愛らしい子だ。影のある美人になりそうな、儚げな雰囲気があって、彼女の周りはちょっと涼しい。
「えへへ〜、ウっちゃんと同じなら温泉スキ? ナディアと温泉する?」
温泉ってなぁに?
とウツタと手を握ったままナディアに質問をする。
聞く相手を間違えているぞ……。
「温泉はねぇ〜。あったかくて、ほかほか!」
「あったかい……?」
「うん! おしることいっしょ!」
「わぁ! かわいい!」
おぉ、もう1人厄介なのが来た。
寄宿学校での授業を終えたフィオーネが汗だくでくろねこ亭の入り口に立っていた。
クシナダも一緒である。
「ソルトさんまかない〜」
クシナダはぐったりした様子でカウンターへ向かった。ユキには興味がなさそうというか腹が減ってると飯以外のことは考えないのがクシナダである。
「とにかくウツタ。ちゃんと頼むぞ」
「えっと、極東の方々が……その」
「ソルトさ〜ん! 相談者の方ですよ〜!」
サクラによばれて俺は店の外へと向かった。ウツタが何か言いかけていたような?
ま、大したことじゃないだろ。
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