第102話 派出所(2)
「ソルトさーん」
相談ってお前かよ! と突っ込む前に俺はため息をついた。
「どうした、リア」
「派出所の方でちょっと問題があって……手伝ってほしいです」
おいおい、まーた仕事で花街へ行かなきゃなんねぇの?
俺は最後のランチボックスにサンドイッチを詰め終えて、それからハクたちに指示を出した。
「で、何が問題なんだ?」
魚をさばいて塩漬けにしてそれから肉花草の仕込みをして……子供達にしぼりたてジュースの仕込みの指示を……
「サキュバスの皆さんが食べれるものが多すぎて大変なんです」
そうか、そう言えばあの花街にいるのはほとんどがサキュバスだ。ってことは食べれられるものの範囲が人間よりも多いってことになるわけだ。
逆を言えば人間はOKでもサキュバスにとっては食べれないこともあるってわけで……。
「待ってろ、すぐに行く」
***
「それは毒だ! すぐに廃棄しないと」
「待ってください! それはいつも私たちにくださる好物で……きゃっ」
俺はサキュバスに強く言いつける鑑定士の首根っこを掴んだ。鑑定士の女はぎゃんぎゃんと騒ぐ。
一方で貢物を取り上げられたサキュバスの侍女は泣きっ面で縮み上がっている。
「これは……冒険者からの貢物だね」
俺は侍女に向かっていった。
侍女は小さく頷く。
箱の中はミミズ。これは毒を持つミミズだがサキュバスをはじめとした魔物の好物である。むろん、これを食べたところでサキュバスに影響はでないしサキュバスに何かが寄生することもないだろう。
「大丈夫、サキュバス同士で楽しむ分には問題ないよ。鑑定士が悪かったね」
俺は侍女に貢物を返して笑顔で見送った。
「リア、鑑定士たちを一旦集めてくれ」
冒険者が一般人……一般人よりも身分が低いとされる遊女を見下してるのは事実だ。俺の配慮が足りなかったことを後悔している。
花街の中で鑑定士は力を持つ存在で、遊女たちに対して上から目線でものをいい抵抗しないからと横暴な態度で仕事をする。
戦士が鑑定士や薬師にそうしたように、この場所で鑑定士が遊女たちに最悪な態度をとっていた。
「おい、そこの鑑定士。お前はサキュバスにとってあのミミズが好物だってこと知らなかったのか」
鑑定士の女は頷いた。
「なぜ、冒険者が彼女たちのあのミミズを貢ぎ、あの侍女があんなに嬉しそうに貢物を抱えていたか考えた上で取り上げたのか?」
鑑定士の女は俯いた。
こいつは人間にとって毒だからという自分の知識だけで貢物を取り上げようとしたのだ。
鑑定士は人の命を守る仕事だ。
でも、考えようによっては人の人生に彩りを加えることだって十分にできる仕事なのだ。
「だって……私はこの街でサキュバスたちを守ってやってるのに! 口答えなんてするから」
「勘違いするなよ……鑑定士部は花街の売り上げからお前たち派出所所属の給料を出してる。俺たち鑑定士とこいつらと対等な関係だ。俺たちが戦士にされたことをこいつらにしてどうする? 遊女だからか? 魔物だからか?」
鑑定士の女は泣き出してしまった。
やっちまったか?
言い過ぎちゃったかも……。
「さすがは……ソルトどのよ」
圧倒的な存在感と色っぽい声で俺は振り向かずともそれが誰だかわかった。
色魔女のベニである。
「鑑定士さんたちの横暴さには驚くあまり……リア殿にソルト殿を呼んでと伝えていたのだけれど……」
あぁ……遊女ってのが差別の対象であったことも冒険者をしていた鑑定士が魔物を認めてない連中が多いってこともすっぽ抜けて派出所を作るなんてのは配慮が足りなかったのだ。
嫌な事件が起きる前でよかった。
「ソルトさん、集まりました」
「お前らに聞く、ここでの勤務に不満があるものは?」
花街の広場に集まった数十人の鑑定士のほぼ全員が手を挙げた。
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