第101話 派出所(1)


 花街の流通監視のために流通部と鑑定士部から人材を派遣し、派出所を作ることになった。各店に派遣された鑑定士が貢物や料理の鑑定を担当し、遊女や冒険者の安全を保障する。


「リア、頼んだぞ」


 このプロジェクトの長に任命されたのがリアである。

 もともと鑑定士部でも親父の右腕として活躍をしていたらしいが今回の大抜擢に本人は恐縮しているようだった。


「頑張り……ます」


 俺も手伝ってやりたいところだが、花街に男が常駐するのは難しい。色気にやられて獣になるか、寿命が縮まるくらい精を搾り取られてしまうかだ。

 今考えてもベニやムラサキの色気に耐えられる自信はないし、アイツらが俺をからかって誘惑をしてくる予感しかしない。


「大丈夫、リアなら絶対にできるよ」


 気休めにしかならないが、俺の弟子としてかなりの勉強はしたはずだし今では俺の師匠である親父と仕事をしているんだ。

 おそらくS級の鑑定士と肩を並べてもおかしくないほどの知識量はあるはずだ。ひとつ懸念点があるとすれば、彼女が優しすぎるところだろう。


「くろねこ亭の方は大丈夫……かな?」


 問題はそっちだ。

 魔物愛護団体の動きが強くなっただけでなく、国王も魔物愛護に傾倒しているらしい。

 くろねこ亭はウツタをはじめとして何名かの魔物が働いている。人型ではあるが彼女たちの力が物珍しいのか、単純なファンか……以前より客が増えた。


「前みたいに閑古鳥が鳴くよりましさ」


 リアに心配をかけたくなくて笑ってみたが、正直きっつい。

 家を新しく建て替えるために畑を縮小しちまったから生産も追いついてないし、何よりフィオーネやクシナダも寄宿学校やギルドでの仕事があるし人手が足りなさすぎるのだ。


 それに……


「ヒメ様、お手伝いをしないと」


「ええい、ヒメは温泉にはいるのじゃ」


「ハク。先に行ってて。すぐに手伝いにいくから」


 ヒメのわがままがいつにも増してひどい。自由を手に入れた王族ってのはもう本当に厄介である。

 そして


「走る〜!」


 ナディアである。

 コボルトは成長が早いが頭があまり追いついてないらしい。シューの話じゃクシナダのように成長と共に頭脳が成長するわけではなく、頭脳は後から成長するらしい。

 つまりは、体は大人頭脳は子供である。


 今は牧場のコボルトと一緒に走り回ったり農業用の水路で泳いだり……とにかく自由気ままに過ごしている。

 ハクやクシナダ、サングリエと仕事をすることもあるがほとんどこうして走り回っている。


「ソルト、鮭蔓の収穫手伝うにゃ」


 シューに連れられて俺は鮭蔓を収穫する。これを炭火で焼くと非常にうまいんだよな。くろねこ亭でもこれを使った茶漬けや定食は人気の商品だ。


「シュー、人手がたりねぇなぁ」


「そうにゃ。そういえばゾーイはいつ戻るにゃ」


「知らん、満足したら戻ってくるだろ。ハクはとっくに戻ってもいい時期なんだが……本人の希望でヒメたちの護衛になるそうだ」


 まぁ……自由にしてくれ。

 極東の御仁らのことについては完全放任主義、俺の知るところじゃない。ヒミコのいう恐ろしいトラップが俺たちの敷地の上空と地下深くまで張り巡らされ、天狐だとしても破れない鉄壁だそうだ。

 考えるだけで恐ろしい。


「よいしょっ」


 ガラガラと音を立てて荷車を引いているサクラは俺に会釈をする。荷車にはたくさんの薬草が積み込まれ、ギルドまで向かうらしい。


「栽培量が増えてきたな」


「うん。ミーナさんと一緒に調薬の練習をするの。いってきます」


 いってらっしゃい。とサクラを送り出して俺はくろねこ亭に搬入する野菜やら米やらを一際大きい荷車に積み込んだ。

 今日はリアの代わりに俺が調理して……それからランチボックスとバーの仕込みか。


「手がいくつあっても足りんな」


 俺はサクラを呼び止める。


「サクラ、エリーに伝えてくれ。相談がある鑑定士はくろねこ亭まで来てくれって」


 サクラは大きく頷いた。

 フィオーネとクシナダのシフトをギルドの方へ減らしてもらうように各幹部に交渉しないとな……。


「これもよろしくっ」


 ドーンッと荷車に乗っかったのは大量のワイン。大きな樽に入ったワインは非常に重くて俺じゃ運ぶのでやっとだ。

 サングリエめ。


「手伝う」


 一緒に一つの荷車を弾きながら俺とサングリエはくろねこ亭へと向かった。

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