第97話 魔物愛護団体(2)

 ってなわけで、ギルド流通部の執務室には極東からソラとヒメそしてヒミコがやってきていた。

 なんでやってきているか?

 そりゃ、俺に変化術をかけてもらうためだ。


「まさか、姉妹だなんてねぇ」


 俺の言葉にヒミコが狐耳をピクリと動かした。真っ赤な口紅が少しだけ不愉快そうに下がる。

 ヒミコとヒメたちは腹違いの姉妹であるが、父親である【天狐】は非常に長生きのためヒミコとヒメたちは親子以上の差があるらしい。

 ゆえに、ヒメたちにとってヒミコはおっかないお姉様なのだ。


「で、我らも協力をするからして成功させよ」


 ヒミコは何やら呪文を唱え、その魔術をシューが補填する。俺とヒメ、ソラそしてフィオーネ、ネル。

 いつも通り大所帯である。

 まぁ、俺たちは魔物愛護に賛同する冒険者として潜入するわけだからパーティーっぽい方がいいに決まってる。


「で、なんでこんな幹部ばっかり? 後、戦士部の幹部も来るって話だけど……もしかして……あなたが?」


 俺の目の前に座っている小柄な女性。可愛らしく両手で湯のみを持って緑茶をすすっている。

 美人だがなんというか影がある感じだ。


「あら……ご挨拶が遅れてごめんなさいね。私は戦士部で幹部をしております。名はエスター・ウリツキーと申します」


 エスターさんは目尻を下げるようにして笑みを浮かべた。

 この人が戦士……の幹部か。

 てっきり親父みたいないかつい男が出て来るのかと思ったが……。


「剣術だけでなく武術も王国1と呼ばれるお方ですよ。ソルトさん」


 ネルのフォローに助けられて俺は愛想笑いをした。

 

「いえ、あのタケル……とかいう異世界の戦士には叶いませんよ。でも、負けはしませんが」


 棘のある言い方だ。

 一見すると可愛らしい女子なのになんというか闘志が溢れている。怖い。


「うむ。では変化の術をかけるぞ」


 ヒミコのしっぽが九つに割れた。

 俺たちを暖かい風がつつみ……ぽんっ! と大きな音を立てて煙か部屋中に充満すると俺の顔がぐにぐにと動いているのがわかる。

 まるで身体中が勝手に成長でもしているようだ。


「ほれ、終わったぞい」


 ヒミコはにっこりと微笑んでいる。俺たちは自分の顔や姿が変わっていることに驚きを隠せなかった。


「俺……エルフになってるじゃねぇか」


 俺は耳の長いエルフに変化していた。というか全員エルフである。

 まぁ、エルフってのは人間と反発していることも多いし、自然保護派が多いってのは事実だしな。


「特徴は服はそのままじゃからの。さて、これはミーナに」


 ヒミコはひょうたんの形をした水筒をミーナに渡した。


「これは変化を解く薬じゃ。皆無事に帰ってきたら飲ますとよい。うむ」


 一応服装で判断はつくが……まぁなんとかなるだろ。

 シューは黒猫……ではなく、どら猫になっていた。


***


「ようこそ、魔物愛護団体クレドリーヌへ」


 大きな洋館は上流階級の住宅地に建てられていた。中はまるでギルドのように受付があり、支部に分けられているようだった。


「たった今、早朝のクレド様が講演をおこなっていますよ。是非、見学なさって」

 

 受付の女は俺たちを一番大きな部屋へと案内してくれた。浮かれる双子と厳しい表情のエスター。俺の腕の中でうとうとするシュー。


「魔物はダンジョンの中でただ暮らしているだけ。我々が勝手に住処を襲撃し、命を奪っているのだ!」


 クレドというのは壇上に立っている男のことだろう。面のようなもので顔を隠してはいるが、高級な服に身を包み履いている靴も一流のもののようだ。

 やはり、こういう慈善団体というのは金持ちからのバックアップがあるのである。


「おや、冒険者の方が何用かな」


 クレドの視線が俺たちを捉える。ミーナが


「冒険者でもあなたたちに賛同をしたいのです」


 と答えるとクレドが拍手をした。つられるように会場にいた人間たちも拍手をする。俺たちは控えめにお辞儀をして椅子に座り、彼の講義を聞いた。

 その大半がギルドと冒険者批判。人間の領地を攻めてこない魔物を殺すべきではないというものだった。


「では、今日はここまで」


「すみませぬ! 質問がございます!」


 ヒメだ。

 こいつは全く本当に……。


「なんでしょう。おや、極東訛りのエルフとは珍しい」


 バレるって! バレる!

 俺は視線でミーナとネルにSOSを送るが2人は見て見ぬフリ。最悪の自体になればエスターと俺を使って逃げ切ろうってわけだ。外にはシノビと保安部が待機している。いつだってこいつらを告発できるんだからな。


「我々は何をすればよいのでするか?」


 ヒメは好奇心で目を輝かせており、隣にいるソラはうんざりした様子だ。


「おや……君は、いや。私の知人によく似ているね。まぁ良い。そうだな、今は様子見でいい。国王が動くまでは……では」


 クレドはすっと消えるように壇上から退いた。


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