第96話 魔物愛護団体(1)

 そこそこの建物ができた後、俺たちの生活はこれまでよりも賑やかで豊かなものになった。ゾーイがこっちに戻ってきたら驚くだろうな。

 小麦畑が狭くなったがまぁそんなに大規模な農業をする必要も無くなったし、問題ないだろう。

 むしろ、沼花の栽培用水槽とワイナリーを家に移動させたことによって生産性はぐっと上がる。

 地下室はウツタ専用で冷温保存が必要なものをぶち込んでおく部屋もそこそこの広さがあって彼女も満足なようだった。


「クシナダはすごいにゃ」


 シューは俺の部屋のソファーに寝っ転がった。俺の部屋は喫煙OK。シューはタバコに火をつけた。

 可愛い見た目のくせに格好つけやがって、いやシューもかなり年なのか?


「なんで? クシナダ?」


「屋敷のトラップを作るのにクシナダに手伝ってもらったにゃ」


 あぁ、クシナダは天職「毒戦士」だっけか。まだまだ幼いがクシナダはS級魔物だからそれなりの素質はあるんだろう。

 そういや、ウツタやナディアもS級。ウツタなんかダンジョンのボスだし。


「ちゃんとしたセキュリティーにしねぇとな。昨今の事情も事情だし」


 シューは「にゃぁ」とテキトーは返事をしながら煙をふかした。


「そういえば、最近の魔物保護団体の動きが強くなってるにゃ。くろねこ亭も売り上げが上がってるのを知ってるかにゃ?」


 そういえば、上流階級を中心に流行っている運動で団体までできたそうだ。昔から賛成か反対かでぱっくり意見がわかれる議論である。

 「魔物を積極的に殺すべきか」というものだ。


「まあ……ダンジョンで生計を立ててるギルドと冒険者にはよくない雰囲気だな」


 シューは2本目のタバコをくわえた。

 

「まぁ、わざわざこっちからダンジョンに入って行って一方的に魔物たちを殺して、ダンジョンが再生する頃にまた入って殺して……。こっち側が身勝手なのは正解さ」


 正直、俺は魔物保護団体とは全く関係ないが、魔物を保護しまくってる気がする。フィオーネに始まり、今では純粋な人型の魔物が何人もいるわけだし、土モグラや牧羊犬のコボルトたちのような益獣と呼ばれる魔物も結構使ってるわけだし。


「ただ、ギルドが不景気になるとマズイな」


 いや〜、1人部屋ってのはやっぱりいいな。これこそ、スローライフの本懐である。きゃぴきゃぴ言われずにのんびり相棒と過ごす……。


「そのうちギルドから頼みごとされるにゃ。魔物保護団体を探ってこいって」


 やめてくれ、冗談じゃない。

 シューのこういう変な予言は当たるんだよな……。


「ソルトー?」


 ノック音とともにドアの向こうでサングリエが俺の名前を呼んだ。

 タイミング……。


「あいよ、どうした?」


「あぁ、ミーナさんがきてるわよ。お迎え? うふふ、本当に綺麗な人よね」


 シューのドヤ顔を見ながら俺は「行くよ」と返事をする。


「そうか? 年増だぞ」


 サングリエに冗談を言いながら俺は応接間へと向かった。一応、必要かと思い作っておいてよかった。

 

***


「あぁ、魔物保護団体ですか」


「ええ、巷では魔物愛護団体と呼ばれています」


 ミーナはサングリエが入れたホットワインを口にしてそれから深いため息をついた。まぁ、ギルドとしてはこいつらの動きが強くなると商売がしにくい。

 

「で、俺の家に来るほどのことが?」


「ええ、怪文書が届いたの、流通部が発見したのだけれど、先ほどまでの幹部会議でも取り上げられて……厳戒態勢に入ることになったわ」


 怪文書……か。

 魔物と人間、俺たちは共生関係を保っているが少しでもそのバランスが崩れればどちらかが居場所を失う。

 戦士たちが萎縮する羽目になればそのフラストレーションは街で過ごす魔物たちに向くだろう。

 逆に魔物たちが戦士を傷つけるようなことがあれば……。


「怪文書の内容は」


「ダンジョンへの介入をやめ、魔物の暮らしを脅かすギルドを今すぐ解体せよ」


 反ギルド組織ってわけだ。


「で、うちのバカ女戦士をとっ捕まえにきたんすか?」


 ミーナは「違うわ」と前提を置きながらもフィオーネの行動には注意してほしと言った。俺としても、声ばかりがでかいあいつが権利主張モードで騒ぎ出すのは正直勘弁してほしいし。


「シュー、フィオーネを呼んできてくれないか」


 しばらくすると土臭いフィオーネが応接間に現れ、丁寧にミーナに挨拶をした。根菜の収穫をしていたようだ。


「では……その魔物愛護団体っていうのが問題だと……?」


 こいつ、賛成だとかいいだすんじゃなかろうか。

 いや、そんな風に考えるのはやめよう。予言になっちまう。


「ダンジョンで冒険者を襲って来る魔物は倒す、でも同じくらい冒険者も死ぬ。だから私は賛同できません。私は戦士ですからダンジョンに入って戦いたい。命をかけて戦うんです」


 そうか、こいつの血液がアップグレードされて色魔女になったおかげで魔物を殺すことへの嫌悪感が消えたんだった。


「この組織のせいで……今戦士を夢見ている寄宿学校の子たちのためなら」


 おぉっ……なんかフィオーネが成長している。

 

「じゃあ、すぐにその団体に乗り込んで戦士の権利を主張しましょう!」


 あー、やっぱバカだわこいつ。

 

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