第95話 急成長の犬耳娘(3)
「シュー、これどうにかならんのか」
「どうやらならないにゃ」
俺に抱きついている犬耳娘はたった3日で人間でいうところの20歳くらいに成長した。なんという速さ。
ヴァネッサによればこのまま長い時間をこの姿で過ごすのだという。
まるでエルフだ。
「ご主人様ぁ」
「どこでそんなこと覚えた」
「ヴァネッサちゃんが言ってた」
「あの野郎……いいから離れろっ」
「くぅん」
ナディアは耳をしょんぼりと下げて俺から離れた。発情期なんてもんで色目使われても困る。非常に困る。
「ソルトったら鼻の下伸ばしちゃって。サイテー」
サングリエの冷たい目線、よくみりゃリアもハクもフィオーネとクシナダまでおんなじような顔をしている。
「ソルトは年下好きにゃ」
シューがトドメの一言。女たちの視線が軽蔑に変わった。
あー! もう!
「おい、ナディア」
「なあに?」
「お前は俺の娘だ。わかるな、む・す・め!」
ナディアはきょとんとした顔で俺を見ている。
「いいか、親子は結婚しない。わかるな」
ナディアは「うん」と頷いた。よし、それでいい。
「だから、俺のことは対象にするな、いいな」
ナディアはぽかんと何やら考えている様子で首を傾げている。そのうちブンブンと嬉しそうに尻尾を振った。
「パパ!」
俺がずっこけそうになって、女たちが笑い声をあげる。
色目使われたり寝込みを襲われるより百倍ましだが……恋人ができる前にパパになるとは……。
「わかったらお前はクシナダねぇちゃんの手伝いでもしてろ」
「はーい」
素直でよろしい。
うるさい奴らがいなくなったところで俺とサングリエ、そしてウツタで設計図を完成させる段階に入った。
コメを加工して作ったせんべいをかじりながら、暖かいお茶を飲む。
「シューと俺の住む階とフィオーネ、クシナダ、ナディアが住む階それからウツタ専用の地下室、ハクとリアそしてサクラが住む階はゾーイの部屋も用意するけど……サングリエはどうする? リアたちの階がいいか?」
シューがしっぽをふわりと揺らした。
「サングリエはシューたちと同じ階にゃ」
「えっ、なんで?」
俺の反論にサングリエが少し悲しそうな顔をする。失礼だったよな。
「サングリエは回復術師にゃ。私たちがいる1階にいるべきにゃ。ほんとならフィオーネにもいてほしいけどアイツはうるさいからなしにゃ」
シューらしい意見だ。
サングリエも賛成らしい。
俺は設計図を見て改めて思う。立派な洋館のような建物だ。最初は小さな農業小屋から始まって、気がつけば牧場ができ、田んぼができて果樹園やら魔物小屋やら生活の全てをまかなえるほどに成長した。
これを機に池も改築して沼花栽培用の水槽を作ることになった。
「貯蓄全部つかってこの家でみんな自給自足するにゃ」
そう、この農場の経営を始めてからの貯蓄が全部ぶっ飛ぶが……まぁいいだろう。結局食い物や飲み物は自給自足できるし、仕事もある。
くろねこ亭が繁盛できないのが痛いが、土地のローンとおっさんの給料だけなら問題ない程度には回っている。
「こりゃ一生結婚なんてできねぇな」
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