第79話 開園!俺の果樹園(1)

 フィオーネの圧倒的活躍っぷりで様々な果実の苗が手に入った。ビバ脳筋。ビバ戦士。


「さて、あとは土モグラたちが頑張ってくれるのを待つのみだな」


 俺は苗の手入れをしながら新しく買った土地に土モグラを放った。荒野だった土地がみるみるうちに元気な土に戻っていく。

 果樹園の一角には倉庫と新しい管理小屋を建てた。


「フィオーネ、テラコヤの計画の方はどうなった?」


 あの大金はどこへ行ったんだ。

 フィオーネはきょとんとしながら答える。


「一旦は貯金です。いずれくろねこ亭を増築してあの2階部分をテラコヤにしようってクシナダと話してたんです。子供たちにはくろねこ亭で働いてもらってやりくりする予定です」


 考えたのはクシナダだろうな。フィオーネがここまで考えを巡らせることはできないだろうし。


「リアさんとサングリエさんと一緒に討伐クエストなんかも行こうかと思ってます。簡単なのですけど少しは足しになるかと思って」


「ほどほどにな」


「わぁ……かわいい」


 サングリエは土モグラを一匹抱き上げると土を払ってヨシヨシする。サングリエは意外と土仕事もいけるらしい。

 流石にへそだしは来ていないがなんかちょっと違和感だな。


「ワイナリーか。とりあえずはぶどうだよな。それから……シロップの木と」


「私は桃がいいと思うけれど」


 ゾワっとする。地獄耳のエルフがいつの間にか俺たちの農場へやって来ていた。


「ネル、こんにちは」


 サングリエはネルに挨拶をすると土モグラを果樹園へ放った。キューキューと鳴く可愛い生き物をみてネルは目を丸くする。


「昔極東で食べた桃が絶品でね。100年桃といったかしら」


 それ、100年に一度しか実をつけないというやつだろ。

 実る頃には全員死んでるって……。


「何の用ですか」


「面倒事よ」


 ネルはにっこりと笑って見せた。


***


 ネルの執務室はなんというか医師って感じの執務室だ。標本のようなものや分厚い本、カゴに入れられた光る虫。

 ミーナのような柔らかさはない。全くない。

 違いといえば、エルフ独特の森の香りがするくらいだろう。


「久しいのぉ」


 ソファーの上に正座をしているのはヒメだ。その横にはちょっと控えめな笑顔のソラが立っている。

 この姉妹といえばロクでもない面倒事を持ち込む事で有名な極東の王族である。


「王子が消えた? なんでそんなもん俺に相談してくんだよ。ってかシノビの方がはるかに優秀だろ……」


 ヒメは下唇を出して変な顔をする。

 心の底からぶん殴ってやりたい……こいつが王族じゃなけりゃな。


「イザナギ様とイザナミ様のご子息……ツクヨミ様が消息を絶っている。王位継承権の第3位であられるツクヨミ兄様になにかあったのではないか。イザナミ様がソルト殿に協力を頼みたいと……」


 目的はわかっている。

 あのイザナミさんとかいう王妃様はうちの猫が大好きなのだ。とはいえ、息子がいなくなったってことは憔悴しているだろうし、力にはなれないだろうが願いは叶えて差し上げるのも恩返しの一つかもしれない。


「問題はここからだ」


 ネルが少し険しい表情になる。


「極東では最近、あの鬼姫薔薇の洗脳薬が出回っておってな。ツクヨミ兄様も敵が多い方。万が一のことがあっては……と」


 あの薬が……?


「ヒメさん、進化水の件で極東風の男が関わっていたことがわかっています。優男で好青年だったとか。そいつが関わっている可能性があります」


 あの洗脳薬はすごく厄介だ。マリアたちはそこまで使い慣れていなかったせいですぐに判断できたが……洗脳薬がもっと上手に使われている場合判断がつかない可能性が高い。

 何よりも予防方法が薬を摂取しないことしかないのだから。


「ワカヒメ殿が洗脳薬を使ってイザナミ様を殺害しようとした容疑で捕まっておってな……ヒメはどうも納得いかんのじゃ。あの方はヒメの事を殺したくてもイザナミ様の事を殺そうなどとは思わないはず」


「そんな中、ツクヨミ様までもが姿を消され……ぜひ協力してほしいのじゃ」


 極東のギルドは何してるんだ。全く。

 でも、イザナミが直々に俺たちに依頼を出してるなら行くしかない。


「ちょっと果樹園の方で忙しいんですけど……そうっすね。すぐに準備します」


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