第62話 ギルドの女たち(2)


「えっと……この方はギルド医師部長、幹部のネル・アマツカゼさんです」


 フィオーネ、クシナダは初めて会う彼女に小さく頭をさげた。フウタとサクラは知っている。

 リア、ウツタはくろねこ亭だし呼びに行く必要もないか。


「こんにちは、よろしくね」


 フィオーネとクシナダは元気よく挨拶をする。クシナダと同じくらいの精神年齢なのかアホさなのか……全く。


「あら、救世主ちゃんもお久しぶり」


 サクラは顔を真っ赤にする。

 ギルドの毒物事件を解決に導いたのはサクラだからな。手柄を持っていかないところはネルのいいところである。


「いやですよ、俺はギルドでは働きません」


「そんな、まだ私は何も話してませんよ」


 ネルは俺が出した紅茶を上品に飲んだ。不思議なオレンジ色の髪にクシナダが釘付けになっていた。


「あら、あなたが噂の蛇女ちゃんね」


「へび?」


 クシナダはおやつのクッキーで顔中こなだらけにしながら首をひねった。


「で、何の用ですか」


「とても良い場所ですね。田畑には作物が豊かに実り、牧場では動物たちがのびのびとしている。少し騒がしいですが、それも良いでしょう。私も過去を思い出しました」


 この女の表情が読めない。微笑んではいるがそれが嘘か誠か。


「ギルドは現鑑定所を解体することになりました」


 この人どんだけ力を持ってるんだ。この人っていうか医師部の力か。


「そして、新しく鑑定士部を作ることになりました。名称が変わるだけで今まで通り鑑定所だった建物を使用しますし、働いている鑑定士たちも据え置きです。ですが、他の部と同じように幹部を配置します」


 俺は冗談で言ったんだぜ?

 どうせ鑑定士の身分じゃ幹部入りなんて無理だって思ったから、こいつらが諦めると思ったからあんな風に言ったんだけど……。

 まさか、本気で動いてきやがるとは……


「ただいま戻りました!」


 ハクがくろねこ亭からまかないをいくつかもって帰ってきた。これはおそらくクシナダ用だ。


「あら、ハクちゃん。お邪魔しているわ」


「ネル様、お久しゅうございます」


 ハクはクシナダの手を引いて外へと出て行った。おそらく、部屋の中の雰囲気を察したのだろう。できれば、サクラも連れて行って欲しかった。


「フウタ。サクラと外へ行ってろ。フィオーネに稽古をつけてもらえ」


「あいよ、じゃあ失礼します」


 寄宿学校にいって礼儀正しくなったフウタ。成長に涙が出そうだ。


「さて、本題に入りましょうか」


「俺は幹部にはなりませんよ」


 ネルはびっくりしたような顔で俺をみて、それからクスっと鼻で笑う。


「まさか、その年齢で幹部になれると思っていたのかしら?」


 今すぐこいつを家から追い出したい。

 恥ずかしくて顔から火が出そうだ。


「じゃあ、何の用なんですか」


 俺がイラついた様子で言い返すとネルは真面目な顔になる。


「あなたにはこのまま、流通部の顧問でいてもらいます。ですが、鑑定士部の幹部になれる人物はほとんどおりません。現役の冒険者、迷宮捜索人も人手が足りていない状態ですから。そこで」


 ネルはもう一度紅茶を口にした。


「あなたに手伝ってほしいの」


 女ってのはずるい。そんな顔で頼まれたら首を縦にふる他ないだろう。俺はギルドに深く関わるのはやめようと誓ったのに。

 すぐに決心が揺らいだ。


「ちょっと、出てくるよ」


 きょとんとした顔のフィオーネたちを置いて俺とネルは街へ向かった。

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