第57話 眠り姫(1)
干し草を
「ヒメ様、大変でございます」
こいつらはヒメの側近のシノビか。ここにこいつがいることを知っているのは数人しかいないらしい。
「ソラ様が……一昨日より目を覚まさなくなり眠ったままでございまする。何者かの魔術かもしれんと国は大騒ぎで……」
ソラといえば、ヒメの影武者の女の子だ。俺たちとも馴染みが深いが、今回ヒメがここに来るためにソラがヒメに成り代わっていた。
「目覚め岩のコケは使ったか?」
俺の質問にシノビは首を横に振った。
「じゃあ、安眠草とかそういう作用があるものが傷口や内臓に埋め込まれている可能性は?」
「それも調べましたが検討がつかず……」
ヒメの顔がみるみるうちに険しくなって行く。
「呪いじゃ……」
呪い……俺は信じていないがそういった魔術の類で人に不幸をもたらすまじないが存在する……らしい。
「極東としてはヒメ様……本当はソラ様ですが……。彼女の奇病の解明をこちらのギルドにも要請する方針のようです」
あぁ、きっと俺のとこにも回って来るぞ、これ。
「国王とお妃様はソラ様を探しておいでです。ですから……すぐに極東へ」
ヒメはシノビたちが言い終わる前にすくっと立ち上がった。
ヒメは国王の姪っ子のはずだ。
もちろん、王位継承権のある王族の一人だろうが……やけに国王に気に入られているような……?
「ソルト殿。ヒメは少々おヒマをいただくぞえ。ソラを助けてまいる」
ヒメは少しだけ不安そうな顔で、白い面をつけて出て行った。
***
「話は聞いていますね。ソルトさん」
圧がすごい。ミーナとネル・アマツカゼが俺たちに笑顔を向けている。ここは執務室。
医師部の幹部と元薬師のミーナがなぜこんな風に一緒にいるのだろう。
「ヒメ・ヤマトをお忍びで農場へ滞在させていたことが明るみになった今、極東からの信用を取り戻すためには我々の力が必須。ソラ……さんでしたか。彼女を救うことがあなた方の使命です」
ネル・アマツカゼがにこりと微笑んだ。
ヒメは極東に戻った後全てを打ち明けたらしい。そりゃそうだ。
おそらく、そうすることで計画失敗に終わった犯人がまた動くと考えているんだろう。
「で、なんでネルさんが?」
「私は元迷宮捜索人ですよ。それに、ギルドの医師部トップが向かうことで極東の信用も取り戻せましょう。あら、私と過ごすのはいやかしら?」
ほんと……めっちゃ嫌です。
「では、私とソルトさん。それからシューさんで極東に向かうことにしましょう」
シューがめんどくさそうに「にゃあ」と返事をして俺の肩に乗った。
ソラさんには死ぬほど世話になったし……俺としても責任があるようなないような気がするし……。
なぜ極東からうちのギルドに白羽の矢が立ったか。しかも俺に。
一人の女の顔が浮かぶ。
きっと極東の医師部で大活躍してそうなうちの牧場管理人が口を挟んだに決まっている。
「権力あるやつに取り入るのは死ぬほどうまいからなぁ」
「何か言いましたか?」
ネル・アマツカゼが鋭い視線を俺に向ける。
「いや、なんでもありません」
聞こえてたくせに。
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