第56話 和洋折衷(2)
「極東交換留学生……ですか」
ゾーイは不思議そうな顔でチラシを見た。極東との交流が盛んになって企画されたイベントのうちの一つで誰でも参加可能。
無論、ギルドを追放されていてもだ。
「でも、ギルドの医師部の人が行くべきなんじゃ……?」
ゾーイは控えめに言ったが、興味はあるようでチラシの内容を眺めている。
「実は……新しい医師部長のススメなんだよ。ミーナ経由で俺に」
「新しい……」
ネル・アマツカゼ。元迷宮捜索人の彼女は今回の毒物騒動でギルドから呼び戻され、医師部の部長、幹部の座に着いた。
あのギルドでの出来事を思い返すとかなり破天荒な人かもしれないと思う。というか……俺たちにとっては都合良かったが、あの司法解剖の結果は苦笑いするしかなかった。
「私が行くってことは誰かが代わりに来るってことよね?」
「シノビが来ることになっておろう。もちろん、そうじゃのぉ仮面をつけて」
あぁ……こいつが来る気だ……。
身分をわきまえてほしい。
「私がいない間、誰が牧場の管理をするのよ?」
ゾーイは必死に行かない理由を探す、申し訳なく思っているのかそれとも……
「サクラとクシナダを中心に任せるつもりだ。俺も手伝う。シノビの人にも教えてあげようか。牛糞の始末……な」
ヒメが「ひっ」と声をだし、ソラが「あちゃ〜」っと頭を抱える。
最初からバレてますよー。
「えへへ〜、干し草〜」
干し草も食うなって教えないと……この前は羊の真似して牧草食ってたからな。クシナダがテーブルに置いてあったあんころもちを丸呑みする。
次の脱皮でもっと賢くなるんだろうか……。
そもそも蛇女ってのはどんな能力が使える魔物なんだよ?
「とにかく、ゾーイ。ギルドはお前を追放した以上、2度と復帰はさせられないがお前の可能性を信じ、他国で医師として成長しこの国に戻って来て活躍してほしいと思っているらしい。身勝手だけどな」
本当に身勝手な話だ。
あの時何人がゾーイに助けられた? ミーナだけでなく幹部だって多くが彼女の処置のおかげで命拾いしたはずだ。
アダム・エックハルトのような人間を復帰させたのにゾーイを復帰させないなんてのは頭がおかしいとしか言いようがない。
「ギルドのためになんて働きたくないけど……でも私、頑張ってみるわ」
ゾーイはぎゅっとスカーフを握って覚悟を決めたように頷いた。
「あのぉ……ヒメに牧場での仕事をおしえてたもう」
ヒメはもじもじと自白し、ソラがすみませんすみませんと頭を下げる。
***
「ゾーイ、頑張ってるかしら」
リアは緑茶の入れ方をマスターしたようでヒメ専用のチャワンに注ぐ。
「ゾーイさんのことですからきっと今頃男の子たちを引き連れてカーストトップに花咲かせてますよ」
フィオーネの言う通りだ。
ゾーイのことだからうまくやってるだろう。
「おにいちゃん! お腹へったー!」
「クシナダお仕事はしたかい?」
俺の言葉にクシナダは大きく頷いた。
「よし、昼飯にするか」
「そうじゃ、握り飯にしてみんなで外で食べるのはどうじゃ? 今日は風がここちよい。ぴくにっくじゃ」
「ぴくにっくー!」
クシナダがフィオーネと一緒に一足先に外へ出た。俺とリアは台所で準備する。握り飯にサンドイッチ。肉花草のベーコンと串焼きも忘れずに。
極東の「うめぼし」ってのはまた癖になる味してやがる。
「シュー、ミルクとベーコンでいいか?」
「んにゃ」
日向ぼっこしたいのかシューは黒猫のままだ。大きく伸びをしてクシナダたちの後を追った。
ヒメはといえば呑気にお茶を飲みながらほっこりしている。
影武者のソラに任せっきりで別の名前をつかってここにいる、とんでもないおてんば王族である。
「あっあの……暖かいスープを持って行ってよいでしょうか」
ウツタがおどおどした様子でリアに言った。
リアはにっこりと笑顔になる。
「豆乳のスープなら残りがあるからすぐ出せるよ」
午後は牧場の手伝いとそれからくろねこ亭の手伝いにもいかないと。
人手が足りなすぎる!
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