第52話 兄妹のおんがえし(2)
「シャーリャ! フーリンさん!」
2人の意識はすでにない。汗だくで何度か嘔吐もしているようだった。熱はないが脈が早い。
神経毒の一種か?
「おい! お前ら手伝え!」
慌てている冒険者たちに声をかけ、患者を広い場所に寝かせる。冒険者の中にも無事なものとそうでないものがいるようだった。
「ちょっと! 私はギルド出入り禁止なのよ!」
ゾーイの声が聞こえ、俺は安堵する。
「ゾーイ、緊急事態だ。入れ」
ゾーイはギルドに入って愕然とする。そしてすぐにフーリンの元へ駆け寄った。
「神経毒……でも毒の種類がわからない」
ゾーイとリアにみんなの看病を頼み、他の冒険者たちにギルド内の患者を運ぶように指示をする。
医師部や薬師部はなにやってんだ!
「全滅……かよ」
医師部も薬師部も全員が倒れていた。死んでいるものも多い。なぜ、こいつらが先に?
会議中だったのか医師部と薬師部は大勢が集まっているようだった。そこに何か毒をまいた?
「フウタ! こっちだ!」
「生きてる人をロビーへ。ゾーイたちに治療してもらってくれ、それから街へでてできるだけ回復術師と薬師、医師をかきあつめてくれ」
走りだしたフウタ、そしてサクラちゃんは俺たちと共にミーナの執務室へ向かう。シューが「大丈夫、死んだりしないにゃ」と気休めにもならない言葉を吐く。
「ミーナさん……」
荒い息、嘔吐した後もある。だがまだ生きてはいた。
「何があったんですか」
俺はミーナさんを横抱きにして持ち上げるとロビーへと向かう。毒物独特の香りもないし、特殊な症状も出ていない。
——失踪したS級鑑定士と薬師
マリアの件で暗躍していた奴らの仕業か……?
「医師部と……薬師部は……?」
ミーナが途切れ途切れ言った。俺は「全滅です」と言うと、ミーナは何か伝えようと口を動かすが聞こえない。
「ミーナさん! ミーナさん!」
ゾーイとリアがミーナに駆け寄って状態を見る。よくないようだ……。
「今、ヴァネッサさんが極東のポートへ入ったわ。ヒメさんたちに頼んで極東の医師と薬師を連れてきてもらえると思う。原因は? わかったの?」
ゾーイに詰め寄られ、俺は首を横に振った。
「おにいちゃん」
サクラが俺の服の裾を引っ張る。
「サクラ、ちょっと待っててな。落ち着くまではいい子に……」
「お水……変な匂いがするよ。人が死んじゃったお部屋のお水も、ミーナさんのお部屋のお水も……変な匂いがした」
会議中だった医師部と薬師部の被害が大きかったのは……水を飲む回数が多かったから。冒険者で被害がまちまちなのは休憩所で水を飲んだか飲んでないか……。研究所の連中が無事なのは研究室で飲食はしないから……?
「水場……ギルドの水場だ!」
***
ギルドの水場……ポンプ式の井戸から汲み出される水は絶品だった。もちろん、これは冒険者にも提供される。受付嬢に頼めば休憩所まで水を運んできてくれるのだ。
会議なんかの時は水差しに入れて秘書や受付嬢が運ぶ。
「毒……なの?」
「あぁ」
無色透明だが、肌に触れるとやけに冷たく感じるのが特徴のこの毒は最上級ダンジョンに生息する水草によるものだ。
匂いはほぼない。俺ですら気がつかない程度だ。なぜ、サクラが?
「最上級のダンジョンなら水を疑うからすぐにわかる。でも、ダンジョンの外でこれを疑う人間はまずいないだろう。それに……ここへ入れるのはギルド内部の人間だけ」
「とにかく、解毒薬は!」
ゾーイが俺の頰をひっぱたいた。俺は我に帰って思考を戻す。
「わ、悪い。これは神経毒と水毒っていう特殊な毒の混合だ。おそらく薬師部に専用の解毒薬があるはず」
「わかった、すぐに探すわ。リア、極東からの助っ人が来たらすぐに伝達して。私とサクラは残っている水の回収。ソルトとシューさんは他にも罠がないか調べて」
ゾーイの的確な指示に従いそれぞれが行動を開始する。
「犯人探しは後にゃ」
シューが猫の姿に戻って集中する。俺はギルド内をくまなく探し他のトラップがないかどうか探すことにした。
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