第51話 兄妹のおんがえし(1)
「なんだよ? これ、どういう意味?」
フウタは家にまで来て俺に一枚の紙を見せに来たのだ。朝一番、サクラちゃんも一緒にだ。
半分も目が開いていないシューが大きなあくびをした。ミルク! と言い出す前に俺はミルクをコップに注ぐ。
「そりゃ、
「なんだよ、
フウタは貧民街の孤児だし、知らないのも仕方ない。だが、これはびっくりするほど超貴重な存在である。
「お前は戦士と魔術師の天職を持ってるんだ」
天職を2つ持つ人間というのは極めて稀である。俺の母親もそうだったらしいが……。
「じゃあ、俺はどっちにもなれるってこと?」
「あー、どっちかといえばどっちもやるってことだ」
フウタは不思議そうに首をひねった。
「魔術を使いながら戦う戦士か、もしくはいざとなれば剣術もできる魔術師か」
俺の母親は前者。後者はシノビにも似ているかもしれない。
ってかシノビって極東特有の天職でその素性がよくわかっていないんだっけ?
「ニイちゃんはなんなんだよ」
「俺は鑑定士だ。ただ、母親が戦士だったからまぁそこらへんもそこそこいけるってだけ」
ある程度は努力で回避できる。特に剣術なんかは鍛錬をすればなんとかなる。戦士ほどの筋力と馬鹿力にはなれないが旨さで魔物を攻撃を躱すことくらいは可能だ。
魔術の方は魔力がないと難しい。
俺も簡単な魔法が使える程度……魔術で火を起こしたり何かを凍らせたり。
「俺は……ニイちゃんみたいになれないのか」
いや……鑑定士より数億倍強いですよアナタ。
なんならS級の戦士だって羨ましがる超貴重な天職です。
「もしかしたら、フウタくんのパパとママはすごく強い戦士と魔術師だったのかもね」
ゾーイが暖かいスープを取り分け、フウタに笑顔を向けた。
「ま、あんたを訓練学校に行かせるくらいなんてことないんだけどね」
ゾーイはニヤリと笑ってリアに合図した。
「え……いいの? でも俺お金……」
「そうねぇ、でも立派な魔術戦士になったらたくさん稼いでもらうわよ?」
ゾーイは顎をあげ得意げな表情で言った。
本当は俺たちで昨日話し合って決めたことだった。フウタの天職が鑑定士だった場合はうちで面倒を見る。
それ以外だった場合は訓練学校に通わせる。
先行投資にはなるが、未来の俺たちのため手足が増えるのは悪いことじゃない。
「うっちゃん? おいしい」
ウツタとフウタちょっと似ているのでリアがつけたあだ名である。本人は気に入っているようですんなりと受け入れてくれた。
「あたたかいスープ……体の芯からほっかほかですぅ」
***
「よーし、クシナダ。それは食べちゃダメだぞ〜」
「はーい」
クシナダは魔物だけあって意外と力強い。収穫の手伝いをしてもらっているが俺と同じくらいの量を軽々と持ち上げている。
「おなかへったー」
「じゃあ、休憩にするか。フィオーネお姉ちゃん呼んできてくれ」
「はーい!」
とてとてっと駆けて行くクシナダを見ながら俺は日陰に腰を下ろした。昼は簡単に魚でも焼くか……。
リアたちはくろねこ亭で済ませるだろうし、シューは昼寝中だ。勝手に寄ってくるだろ。
「魚っと」
俺は保管庫に向かい、昨日釣った魚を取り出した。串にさして焼こう。どうせクシナダは丸呑みにするんだし。
「お魚かにゃ」
「お早いお越しで」
シューは「にゃあ」と返事をすると俺の肩に乗っかった。日向ぼっこしていたのかシューの毛からはいい香りがする。
「ふわふわに焼くにゃ」
「あいよ」
シューの監視のもと、焚き火で魚を焼いていた時のことだった。
「ニイちゃーーーん!」
既視感のある焦った感じのフウタ。そしてサクラ。
面倒事の予感。
「大変だ! 大変だ!」
「あぁ、なんだなんだ。昼飯食うか?」
「それどころじゃないよ!」
フィオーネとクシナダが目を丸くする。クシナダは「ごはん?」と首をひねった。
「ミーナさんが……シャーリャ姉ちゃんが……みんな倒れちまってるんだ!」
なんだって?
俺の背筋がひやりとする。
「俺、訓練所の登録に行こうとおもってギルドに入ったら様子がおかしいんだ。みんな苦しそうに倒れて……ミーナさんまで」
「他の冒険者は? 鑑定所は」
「全滅だって。ミーナさんがソルトニイちゃんを呼んでこいって……そしたら意識がなくなって」
フウタがガクガクと震える。サクラも同様に怯えている様子だった。
「人手が必要だ。お前らはゾーイとリアを呼んでからギルドにきてくれ」
俺は焼いていた魚をすべてクシナダに渡す。
「クシナダ、全部食べていいぞ。フィオーネお姉ちゃんと一緒に農作業頑張ってくれ、あと土モグラは食っちゃダメ!」
クシナダが良い返事をした。フィオーネはなんとか自分の分の魚を口に入れシューは御機嫌斜めである。
「シュー、なんか嫌な予感がしないか」
「バリバリするにゃ」
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