第48話 開店!くろねこ亭(1)
「おっさん……結局外なのね」
俺が声をかけると新しい建物の入り口付近、外売り用の露店にはあのイモイモ焼きのおっさんが立っていた。いそいそを準備をしている。
「おっ、ソルトさん! いや〜副店長! お給料もバッチリ! ありがたいねぇ!」
おっさんが乗り気でよかった。テイクアウト用の露店は店の厨房につながっているようで利便性が高い。設計図をゾーイに任せてよかった。
「おっさん、あんた名前はなんて言うんだよ?」
「あぁ! そう言えば。俺はボルケノって言うんだ。まぁ、おっさんでいいよ」
おっさ……ボルケノはガハハと笑う。
「この出店……露店ってかなんだ?」
「あぁ、ここはテイクアウト用の外売りスペースさ。ここじゃ食べ歩きできるイモイモ焼きとか飲み物、お持ち帰りのお弁当なんかを簡単に受け取れるようになってるんだ」
意外としっかりしてるだろ? と言われてみれてみれば露店とはちがってしっかりと柱や壁があり寒い時期でも安心な設計だ。
中に入ってみればテーブル席が3つ、カウンター席が4つ。テラスはないがギルド広場に面しているのでテイクアウトでも十分に食べるスペースはあるだろう。
厨房は外売りのスペースとつながっている……よくみれば壁の半分がガラスになっており、外から厨房が見える派手な作りだ。
釜の中で焼けるピッツァやフライパンの上で踊る肉花草は道ゆく人を惹きつけるだろう。
裏手側へ回ってみるとそこには小さな倉庫と井戸がある。倉庫には食料やら酒やらが所狭しと並べられ、井戸からはいつでも新鮮な水が上げられるようになっていた。
「2階もあるんだな」
ゾーイは俺の質問に胸を張って答える。
「ええ、2階は従業員の仮眠スペースよ。ここで皿洗いや手伝いをすれば利用可能。子供たちがあったかい場所で勉強したり眠れれば将来の投資にもなるしね」
おそらくリアの提案だろう。まったく、俺のお人好しまで似ちまったか。
「意外と居心地がいいにゃあ」
シューがテーブルの上にひょいと乗っかって大きく伸びをした。俺は黒猫のシューを抱き上げて店の外へ出る。
「くろねこ亭か。忙しくなりそうだな」
「にゃあ」
「そこでソルトさん。お願いがあるんです」
ゾーイが上目遣いでいかにも媚びた様子で言った。
あぁ、嫌な予感がする。
「あのね、万年氷を探しに行って欲しいの」
***
「ってなわけで万年氷を取りにきたわけだが……」
寒い! 寒すぎる!
そしていつものメンツ!
なんでお前らがいるんだよ!
「極東のダンジョンは厳しいものばかりじゃ。ふふふ、くるしゅうない。ヒメはついて来たかったのじゃ」
ソラが申し訳無さそうにお辞儀して見せた。俺もソラを真似て首を下げた。
「すごい……ですね。魔物が生息できないほど……環境が厳しいダンジョンだなんて」
フィオーネ言った。
いることはいるけど……魔物も俺たちを襲っている場合じゃない。ギルド特製の防寒着とシューの魔法でやっとこさ動ける程度。
普通に入って来たらすぐに凍死しているだろう。
「ややっ、万年氷ですな」
ソラが万年氷を削り取る。まるでクリスタルだ。これがあれば魔法陣の中が冷凍庫のように冷たくなり、あいすくりーむや氷の生産が爆増する。
ささっと取って帰ろう。
「ん? 君! 大丈夫か!」
冒険者用の防寒具を着た女性が倒れていた。俺が万年氷を受け取り、フィオーネが駆け寄ってその人を抱き上げた。顔色が悪く、不可思議な水色の髪はパキパキに凍っている。
意識はないようだ……。
「あの……わたし」
「大丈夫、すぐにポートに戻って外へ戻りましょう」
フィオーネの荷物を俺が背負って、ヒメたちを先頭に俺たちはポートへと戻った。
「ちが……」
「さぁ、もうすぐ外ですよ」
「えっ……わたし」
「ヒメ様、ささっ仮面を」
「ほれ、似合うじゃろ」
「それもう何回めですか」
「わ……わたしっ! ここのボスなんです!」
この子は何変なこと言ってるんだか。このダンジョンに錯乱する系の植物生えてたっけ?
いや、生えてないな……。そもそも、この子の仲間は?
「フィオ……」
気が付いた時にはもうポートが作動していた。俺たちはギルドへと戻される。フィオーネは腕の中に「ダンジョンボス」を抱きながらギルドへと戻ってしまったのだ。
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