第32話 フィオーネの受難(2)
「ではお気をつけてください」
シャーリャに送り出された俺とフィオーネは初級者ダンジョンへと足を踏み入れた。
フィオーネと因縁深いあの
「死んでる……な」
様子がおかしい。
ここは初級者ダンジョンのはず。なのに冒険者の死体がいくつか転がっていた。
俺の足元には毒にやられて死んだと見られる女戦士の死体。仲間は丸呑みにでもされたのかどこにもいなかった。
ただ、焚き火の跡を見ると4人パーティーだったようで……いや、これ以上考えるのはよそう。
「フィオーネ、何かがおかしい。一旦戻ろう」
フィオーネは「ええ」と返事をしたが、遅かった。
ぬるぬると蠢く大きな胴体、ぎらりと光る2つの目。長い舌が俺の目の前まで迫っていた。
「おおっ!」
俺は思わず剣を抜いて応戦する。
フィオーネは俺を守るように立ちはだかると1撃、
なんだ?
こんなダンジョンの中層付近で
こいつはこのダンジョンのボス。最深部にいるはずなのだ。
「フィオーネ、やれ」
フィオーネは何度か
なんだ……?
この
「産卵期だ」
伝えるべきではないとわかっていた。
彼女はサキュバスの血のせいで魔物に同情しやすくなっている。だから殺すことができない。
それを無理に乗り越えさせるためにここに連れてきたわけで……もしも
フィオーネは戸惑うだろう。
「赤ちゃんを……守ってる」
フィオーネが予想通り手を止める。
「フィオーネ!」
丸呑みにされたら俺が助ける。
でも……ここで
「お前が必要だ!」
びっくりするほど臭いセリフが俺の口から飛び出すと同時、フィオーネは剣で
フィオーネは目を閉じたまま、
「フィオーネ……無事か?」
フィオーネは泣いていた。怖かったのか、魔物を殺して悲しかったのかはわからない。ただ、子供のようにしゃくりあげ泣いている。
「よく、頑張ったな」
「目を閉じれば……この子たちの目を見なければ……殺せるみたいです」
俺は
そして……
「奥へ行こう。卵はあるはずだ」
「私は、子供を守る親を殺したんでしょうか」
「そうだ」
「では……
「いいや、ダンジョンは不思議なものでな。ボスを倒しても数日で復活する。卵は俺たちが育ててもいいし、見世物小屋や研究所に寄付してもいい。それに
フィオーネは少し悲しそうに笑って頷いた。
酷なことをした……彼女は成長したか? それとも心に傷を負っただろうか。
***
「いやです! 牧場で育てるんです!」
「バカ! 動物たちが丸呑みにされちまうだろ!」
大きな卵を抱きかかえたフィオーネはギルドの受付で大声を出して地団駄を踏んだ。あまりにも声が大きいので注目を集めている。
「これはあの子から受け取った遺産です! 研究所なんかに渡してたまるもんですか! 食べるなんてもっての他です! 魔物にも権利を! いい魔物だっている!」
やばいぞ……。フィオーネの正義感モード。これはこいつが納得するまでやり続けるぞ。
やっぱ連れてこなきゃよかった。
「いいですよね? ソルトさん。私ちゃんと面倒みます」
ぎゅっと腕を掴まれて、彼女に触れると俺の体に電撃が走る。これが、サキュバスの血……こんな時ばっかり色目使いやがって……。
「シューと相談。リアとゾーイは多分苦手だろうからお前が説得しろ。もしも牧場の動物や土モグラを食ったらお前が処分しろ。いいな」
「はいっ!」
輝くようなアホ笑顔。
少しだけ自信を取り戻したうちの用心棒は、大きな卵を抱えてスキップをする。
俺たちの仲間がまた増えて、きっと賑やかになるはずだ。
「魔物小屋の土地が必要だな……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます