第25話 受付嬢ゾーイ(2)
「ゾーイが失礼しました。ちょっと自由を与えたらそのようなことを……」
フーリンは申し訳なさそうに頭を下げた。
ミーナの執務室、俺のデスクには書類と書籍が山積みである。
「リアのことが心配で。できればちゃんとゾーイを見張っていてくれると助かります」
わがままを言っていることは理解していた。
「リア……、あぁゾーイのせいで死にかけた鑑定士の子ですね」
片目を失い、体には大きな傷も残っている。今でも足が少し悪かったり、雨の日は体が痛んで起き上がれないことだってある。
彼女は何よりも勉強熱心でそして優秀なのに、あの女の私情で将来を奪われ傷つけられたのだ。
「もう受付には戻れないでしょうし、もう頃合いかもしれませんね」
ミーナが静かに言うと、フーリンは少し嫌な顔をした。
「ミーナさん、でも……」
「フーリン。我々幹部は異世界から召喚したタケルに大きな傷を与え迷走させる原因となったゾーイにはそれなりの報復が必要だと考えています」
ミーナはトンと書類の背を合わせるように置くと立ち上がってフーリンの方へと歩いていく。
「もしも……ゾーイが何か悪意をもって彼の農場へ向かっていたとしたら? 私はあなたまで罰するように言わないといけないわ。フーリン」
怖っ……。
「冒険者に損害を与えた人間が、冒険者による納税で成り立っているギルドで働くのはどうなのかしら。彼女が担当しているブタ……屠殺場経由の品質が心配されたりして流通部としても対処をしたいところなの」
フーリンが頭を下げたままだ。
なんか……俺がチクったみたくなってないか? ゾーイに関してはリアに近づいたり悪さをしないようだったらどうでもいいんだが……。
「では……手続きをいたします」
フーリンは悲しそうな表情で言った。
一体何が行われるというんだろうか。
「気になりますか」
「ええ」
「記憶を全て削除した上で、一般人として生きる道を彼女に示すという方法です。人道的ではありませんが……彼女は間接的に人を殺し、ギルド最強の戦士を失うきっかけにもなった。本来であれば命を奪われてもおかしくないのです」
タケルのためにここまでするか? と腹がたつ気持ちがありながらも俺は少しだけ納得した。
思い出さないようにしてたけど……俺が一緒に旅をしていた元仲間は死んじまって、もういない。
回復術師のマリカ、魔術師のアイナ。
性格は悪いが実力は札付き、彼女たちに助けられたことが何度もあった。いいアイテムがドロップした時は一緒に喜んだし、料理が美味しいと笑顔で言われた時はドキッとだってした。
「あいつら……死んだんだもんな」
あの時、俺がもっとちゃんと新人だけに行かせる危険性を伝えていれば、報酬なしでも無理について行っていれば……。
あいつらは今も最前線で大活躍してたかもしれない。
どっと襲ってくる罪悪感に俺は胸を押さえた。
「フーリンにとっては、とどめておきたい人材だったはずです」
「なぜです?」
「ゾーイはいい身分の家系の子なの。タケルのパーティーやS級のパーティーを担当していたのもフーリンの期待あってのもの。こうなってしまえば……フーリンの評判もただでは済まされないでしょう」
ミーナはそっとティーカップに口をつけた。
「リアを大事にしているのですね」
「ははは……何かの縁というか、なんというか。リアは俺と同じでゾーイの計画に巻き込まれただけだったし……彼女は優秀です」
ミーナは「そう」と小さく答えてから書類に視線を戻した。
ゆったりとした時間が執務室に流れる。
なんか、もやもやするな……。
あのバカ女の記憶を消したところで何か問題が解決するのか?
もっと反省させて、もっと罪をわからせる必要があるんじゃないか?
「ミーナさん、ゾーイは俺が引き取ります。記憶は消さなくていい。その代わりお願いがあります」
ミーナは部下に言いつけてフーリンを呼び戻すように言った。
あぁ、なんて俺はお人好しなんだか。
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