第24話 受付嬢ゾーイ(1)
俺の牧場は意外にも順調に開始することができた。もともとあった農場にくっつける形で土地を買い広げ、ライ麦畑と牧草が生い茂る草原と大きな牛舎を含む育成小屋が建てられた。
動物の数が少ないこともあって広々のびのびとしている。
ただ、問題があるといえば毎日ここへ足を運んでくる女。
ゾーイである。
「お願いよっ! 謝るからっ! 許してっ!」
タケルはショックを受けて旅に出てしまったので男も失い、自らの所業で仕事も失った。といってもギルド内のトイレ掃除と豚小屋での勤務はあるようだが。
俺がギルド流通部の顧問となって足を運ぶようになってからコイツに目をつけられてしまったのだ。
トイレでばったり出会ったせいで。
「ちょっと! 近づかないでくださいっ! 疫病神!」
リアがありったけの塩をゾーイにぶっかける。ゾーイの自慢の金髪が台無しになるわ、目が真っ赤になるわで阿鼻叫喚……。とどめにシューがトマトを投げつけた。
コイツら完全に楽しんでんだろ……全く。
たまらずゾーイは今日も撤退だ。
「謝るからどうして欲しかったんだろ?」
俺の言葉にフィオーネが答える。
「私たちが羨ましいんですよ、きっと」
郊外でのんびり農場ライフ。正直言うと最高だ。気の知れた仲間と弟子しかいないし、動物たちも清潔でもふもふ。
ある程度の金銭は稼げるし、うまい飯も食える。
ちょっと暇ができたらダンジョンに行って採集したり、魚釣りしたり。
「でもあいつはもっと目立つようなことが好きな人種だろ? なんで俺よ」
「権力にゃ」
シューが肉花草を収穫しながらボソリと言った。
権力なんてないぞ。
顧問なんて言ってもミーナの隣のデスクで彼女の質問に答える簡単なお仕事だ。
あれ以来目立った事件もないし、冒険者たちの
それも、パーティー内の鑑定士が小遣い稼ぎのためにやっていたとかいう軽いトラブルだったし。
「あの女専用のトラップ作るにゃ」
シューはゾーイの髪をいつの間にやら手に入れており、黒魔術をやるために牧場の方へと走って行った。
うーん、やっかいなやつだなぁ。
「リア、無理しなくていいからな」
俺は正直、あの受付嬢に対して特に特別な感情はない。ブラックリストの件もあいつの悪事が明るみになったわけだし。俺としてはブラックリストに載ってようが載ってまいがあんまり関係ないし。
ただ、リアは違う。
リアが悪かった部分もあるかも知れないが、その代償が重すぎるように感じる。もしも俺が新人で、目の前で仲間が食われ……自分も食われかけたとしたら二度と笑顔にはなれなかっただろう。
「なんとしてでも追っ払わないと……塩がダメなら次は牛糞です!」
それってこっちまで臭くなりません??
まあ、本人が楽しそうだしいいか。
俺は足元にすり寄ってきたコボルトの「クロ」と「シロ」の頭を撫でた。シューがしつけているだけあってすでに番犬であり牧羊犬として機能し始めている。
ちょっと犬臭いけど、なんとも可愛らしい。
「ライ麦の収穫と干し草への加工は人手が必要だな……」
ガキどもを集めるか。
ミルクの加工には人手が必要だし……うーん。
「牛糞の運搬終わりました! こちら代金です〜」
牛糞も農家にとっては栄養たっぷりの肥料なわけで。ちょっと安く売ってやれば金に変わるのだ。
「今日はその金で夕飯の材料で足りないもんを買ってきてくれ。ちょっとギルド行ってくる」
フィオーネは俺のギルド行きにぽかんと口を開けて頷いた。
「ゾーイのこともあるし、ちょっとはミーナさんに働いてもらわないとな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます